神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
それにな。

「…それ、どんな味なんだ?」

「美味しいよ。ほら、羽久も食べてみて」

俺は、シルナに差し出された皿に乗っていた、例の餅菓子を一つ摘んだ。

これがナンセイ民主共和国の名産品…ね。

見た目はあまり、美味しそうには見えないが。

俺はその餅菓子を、ぱくりと口に入れた。

おい、あんなに警戒してたのにお前も食べるのかよ、って?

今更だろ。既にさっきから、シルナはばくばく食ってるんだから。

毒の混入を疑わないではなかったが、既にシルナが食べているなら、毒が入っていても別に構わない。

シルナが毒で死ぬときは、俺も一緒に同じ毒で死ぬよ。

二人して同じ毒で死ぬなら、それはそれで本望だ。

それにな。

俺も、もう周りを警戒するの疲れた。

もし何か起きたら、何か起きたときに考えるよ。

「どう?どう?美味しい?」

「ふーん…。…結構イケるな」

「でしょー?」

何でお前がドヤ顔なんだ?

シルナがいつも食べてるお気に入りのチョコよりは、ちょっと甘さ控えめだな。

俺はシルナと違って、甘ったるい菓子はあまり好きじゃないから。

このくらいの控えめな甘さが丁度良い。

何より、警戒し過ぎて疲れた頭に、この甘さが染み渡る。

「美味しいけど…ちょっと固いな」

「お餅だからね」

「喉に詰まらせるなよ、ご老人」

罠でも毒でもないのに、餅菓子を喉に詰まらせて死にました…なんてことになったら。

あまりにみっともなくて、死んでも死にきれないからな。

幸いなことに、その後、餅菓子を食べて何時間か経過しても。

舌が痺れてきたとか、急激に身体がだるくなるとか、そういうことは全くなかった。

どうやら、毒は混入していなかったようだ。

こうして、俺達のナンセイ民主共和国滞在一日目の夜が、ゆっくりと更けていった…。
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