神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
第20章
…翌日。

俺は、カーテンを開けっ放しの窓から差し込む朝の光で、目を覚ました。

見覚えのない天井が目に入って、俺はぼんやりとした頭で考えた。
 
…ええっと。

ここ、何処なんだっけ…。

…あ、そうだ。

むくっと起き上がって、俺は周囲をきょろきょろと確認した。

…何もない。

驚くほど何もないぞ。

昨夜寝る前に餅菓子を食べたが、身体に不調はない。

むしろ、一晩経って船酔いが治って、身体の調子は昨日より良くなっているくらいだ。

寝込みを襲われるかと警戒していたんだが…そういうこともなかったようだな。

お陰で、間抜けにもぐっすり眠ってしまっていたようだ。

警戒していたつもりなのに、俺も船旅に疲れていたんだろうか。

…そうだ、シルナは。

「おい、シルナ…」

シルナの方は大丈夫だろうかと、俺は隣のベッドの方を向いた。

すると。

「うーん、むにゃむにゃ…。うふふ…チョコの海だ〜…」

「…」

「見て、チョコの船と…ほら、チョコのお魚が泳いでるよ。あっちは…チョコのなるヤシの木が…」

腹の立つニヤケ面で、頭の悪そうな寝言を呟いていた。

…どういう夢を見ているのか、寝言で大体察しがつくのがキモい。

俺はおもむろに、手元にあった枕を一つ手に取り。

思いっきり、シルナに向かってぶん投げてやった。

「いだっ!」

おはよう。

「…起きたか?」

「ふぇぇ…?」

目を覚ましたシルナが、もぞもぞと毛布から出て起き上がった。

「…何だろう。今、凄く良い夢を見てた気がするんだけど…。凄く乱暴に起こされた気がするよ」

「そうか」

チョコの海に溺れてる夢を見てたらしいぞ。

まぁ、教えてはやらんけどな。

「それより、さっさと支度するぞ。今日はいよいよナツキ様との面会だ」

「あ、そうか…。…朝ご飯、甘いものが食べられると良いなぁ」

観光しに来たんじゃないんだぞ、全く。

一晩経って何事もなかったもんだから、既にすっかり油断している。

…かく言う俺も、かなり油断してるけどな。

今日はナツキ様に会う…予定なのだから、改めて気を引き締めないとな。

果たして、鬼が出るやら蛇が出るやら…。
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