神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「…シルナはこの通り、簡単に懐柔されてるが…。…俺はそこまで甘くないぞ」

お菓子だけにな。

って、上手いこと言ったつもりかよ。

他国の王様に向かって、我ながらクソ生意気な態度で話しているとは思う。

が、俺はナツキ様相手には礼儀とか考えないからな。

俺達はフユリ様の味方だし、それにマシュリやルディシアを使い捨てにしてくれた、その恨みもある。

仲良しこよししに来た訳じゃねーんだよ。

それは忘れるなよ。

「随分警戒されているようだな。…まぁ、無理もないかもしれないが」

ナツキ様は気を悪くした様子もなく、平然として、笑みさえ浮かべていた。

器が小さいように見えて、意外とそれほど小さくなかったようだ。

それとも、平気なように見せてるだけで、腹の中では無礼な俺にイライラしているのだろうか。

…顔だけでは分からんな。ナジュじゃないから、俺。
 
「だが、心配しなくても俺は、君達と事を構えるつもりはない」

「…」

「俺がここに来たのは、紛れもなく俺の意志だ。誰の指示でもないよ」

…ヴァルシーナも関係ない、って?

信じられんね。

「…御託は良い。何の為に俺達をここに呼んだのか、早く話してくれないか」

罠に嵌めるつもりなら、早くやれよ。

「勿論だ。俺はここに、君達を…と言うより、シルナ・エインリーを試す為に来た」

…何?

うっかり、お菓子に手を伸ばそうとしていたシルナの手が止まった。

食べようとしてんじゃない。お前って奴は。

毒の可能性はまだ消えてないんだぞ。

「…試すだと?」
 
「あぁ。俺から手紙が届いた時点で、当然君達は罠を疑ったはずだ」

「…」

…よく分かってるな。

何なら、今も罠を疑ってるからな。

フユリ様を罠に嵌めた、その自覚はあるってことか?

「それでも敢えて危険を犯し、俺に会いに来る…その度胸と気概があるかどうかを試したかった」

と、ナツキ様は上から目線で言った。

随分偉そうな態度だな。

王様気取りかよと思ったが、そういえばこの人王様なんだった。

そりゃ偉そうにする訳だ。

「罠を疑って一歩を踏み出さない臆病者なら、君は取るに足らない、ただのイチ魔導師…。でも、もし自らリスクを犯してでも、敵の大将の顔を見に来る気概があるなら…」

「…あるなら、何だよ?」

「そのときは、腹を割って話すつもりだったよ」

…ふーん。

じゃあ、俺達はナツキ様のお眼鏡に適ったってことか?

試験合格、おめでとうって?

…つくづく、人を馬鹿にしやがって。
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