神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…よし。

「それで?あんたはヴァルシーナと組んで、シルナとフユリ様を暗殺する為に、御大層な『外交大使』を送ってきたのか?」

散々好き放題言ってくれやがって。

今度は、こっちが攻めるターンだ。

皮肉をたっぷり込めた「外交大使」とは、ルディシアとマシュリのことである。

「あぁ、あの二人…」

と、ナツキ様は少し考えていた。

一応、自分が「外交大使」様を送り込んだ自覚はあるようだな。

「危うくこっちは、命を失いかけたんだが?あれが外交大使ってのは、どういう了見だ?」

腹割って話すんだろ?聞かせろよ。

言っとくが、言い訳は聞きたくないからな。

「俺は最初から、そのつもりはなかったんだが…。ヴァルシーナに言われてな」

「あ?何を?」

「ルーデュニア聖王国に手を出すつもりなら、まず先にシルナ・エインリー学院長を無力化するべきだとな」

やっぱりヴァルシーナの入れ知恵だったのか。

「ヴァルシーナに指示されたから、ルディシア達を送ってきたのか?」 

「あれも、君達を試す為の一次試験だよ。あの程度の刺客を送って、どんな反応をするのか見たかった」

言ったな?今、刺客って。

外交大使じゃなくて、やっぱり刺客だったんじゃないかよ。

しかも、俺達を試す一次試験だって?

じゃあ、今ここで会ってるのは、二次試験だった訳か。

…えっらそうに…。

「まぁ、あの程度でシルナ・エインリーがどうにかなるとは思ってなかったが…。厄介払いも含めて、牽制しただけだ」

「…厄介払い?」

って、どういう意味だよ?

「ルディシア・ウルリーケとマシュリ・カティア…。実力は確かなようだが、忠誠心の欠片もなく、いつこちらに牙を剥くか分からない…。扱いにくい駒だ」

「…」

…駒だと?

扱いにくい駒?ルディシアとマシュリが?

「ルディシアの方は、あの自由奔放な性格…。興味次第で味方に回り、また好奇心で敵に回る。いつ裏切るか分からない味方なんて、敵と同じだ。だからこれを機に、『HOME』から追い出したかった」

「…」

「案の定、ルーデュニア聖王国に着いた途端、あっさり裏切ったからな。そんなことだろうと思っていた」

…よく分かってるじゃないかよ。

自分には、自由奔放な部下を御しきれる自信がないって。

「それから、マシュリ・カティア…。あれは制御装置のない、強力な爆弾のようなものだ。使いようによってはこちらに多大な貢献をするが、使い方を誤れば味方を巻き込んで自爆する」

「…」

「こちらも、非常に使いにくい駒だった。長く一箇所に留まると、いつ暴走するか分からないからな…。どうやら、役目を果たすことも出来なかったようだしな。あのような役立たずは、『HOME』には必要ない」

…そうかよ。

何だろう。この部屋に来て俺は今、一番…。

…一番、腹が立ってる。
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