神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
それなのに…。

「当然の疑問だ。だが、それは俺も考えてある」

ナツキ様は堂々として頷いた。

「…その御大層なオツムで、何を考えてるんだ?」

「勿論、俺は世界魔導師保護条約を世界各国で締結させるつもりだ。ルーデュニア聖王国も例外じゃない」

…だよな。

つまり、その条約が締結されたら。

俺達は揃って、ナツキ様に所有される、魔導師という便利な道具になる訳だ。

「俺は、あんたの道具になるつもりはないぞ」

「分かっているよ。だから、もし君達が自らの意志で俺を選んでくれたら…君達は、特例保護魔導師に認定するつもりだ」

…あ?

なんか、新しい言葉が出てきたぞ。

「特例保護魔導師…?」

「あぁ。世界魔導師保護条約では、全ての魔導師を国に登録して、使用する魔法を国が一括管理するのが目的だが…」

つまり、魔導師を国の道具にするんだろ?

「魔導師の中でも、政府が特別に認定した一部の魔導師にだけは、魔法の使用を制限せず、更に国の指導のもと、魔導理論の研究も許可するつもりだ」

「…」 

俺は再び、シルナと顔を見合わせた。

…成程、そういうことか。

ずっと疑問に思ってたんだよ。

世界魔導師保護条約なんて、魔導師の権利を奪うような非人道的な条約を提案したけど。

ナツキ様の周りにいる部下の中にも、魔導師はいるだろうに。

皇王直属軍…『HOME』とかな。
 
その『HOME』に所属する魔導師は、どうして魔導師保護条約に反対しないのかと、ずっと疑問だった。

マジで条約が締結されたら、『HOME』の魔導師達だって、非人道的な扱いを受けることになるのに。

何でまだ、ナツキ様側についているのか。

でも、その理由がようやく分かった。

ちゃんと抜け道があったんだ。身内にだけは。

それが、その特例保護魔導師制度。

ナツキ様によって、特例保護魔導師とやらに任命されれば。

世界魔導師保護条約が成立した後も、自分だけは特権的な扱いを受けられる。

だから、ナツキ様に味方しているんだ。

今からナツキ様に媚を売っておけば、特例保護魔導師に認定されるから。

そしてナツキ様は今、同じことをシルナにさせようと迫っている。
 
自分に味方して、世界魔導師保護条約の締結に一役買ったら。

条約が結ばれた暁には、シルナも俺も、特例保護魔導師に認定してくれる。

それによって、俺達だけは、国の所有物にならずに済む…。

…そういうカラクリかよ。

御大層なオツムで、それはそれは、また御大層な制度を考えたものだ。
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