神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「無論、君達だけじゃない。君の周りにいる仲間…多くの魔導師達もそうだ」

と、ナツキ様は言った。

「彼らの説得に協力してくれれば、君の仲間達も特例保護魔導師に認定しよう」

俺達の周りにいる魔導師…。

イレースとかナジュとか?

「君のお仲間の…聖魔騎士団魔導部隊の魔導師達も、だ」

シュニィや吐月達も、特例保護魔導師に認定してくれるそうだ。

…それはまた…有り難いお誘いだな。

畏れ多い話じゃないか。アーリヤット皇国の皇王様から直々に、特別扱いを約束してくれるとは。

今ナツキ様の周りにいる魔導師達は皆、こんな風にしてナツキ様に懐柔されたんだろうな。

「君だけは特別」、「だから協力して欲しい」ってな。

確かに、気持ちは分かるよ。

そう言われたら、うっかり首を縦に振りたくなるもんな。

俺も…シルナがいなかったら、もっと前向きに考えていただろう。

「それから、君が心配しているヴァルシーナのことだが…」

ナツキ様は続けて、今度は俺の質問に答えた。

「彼女のことも説得するつもりではいる。でも…どうしても彼女がシルナ学院長を受け入れられず、俺のもとを去るつもりなら…それはそれで構わない」

…ルディシアやマシュリを切り捨てたのと同じように。

ヴァルシーナのことも、躊躇わずに切り捨てる訳か。

「代わりに、シルナ学院長が味方になってくれるならそれで良い。ヴァルシーナとシルナ学院長だったら、より敵に回したくないのは後者の方だからな」

それは正しい選択肢だよ。

戦力分析能力だけは優秀だな。

最悪、シルナが味方になってくれるなら、ヴァルシーナなんて敵に回しても構わないと。

「…さぁ、これでどうだ?返事を聞かせてくれるよな?」

…だってよ。

そうだな…言いたいことは色々あるが…。

「…あんた、これまでずっとそうやって、自分の味方を増やしてきたんだな」

とりあえず、嫌味の一つでも言いたくなるってもんだろう。

天下のアーリヤット皇王に嫌味を言うとは、俺も我ながら大胆なことをしてるもんだ。

しかし、ナツキ様はその程度では狼狽えない。

「そうだ。何か問題があるか?」

むしろ、開き直る始末。

「…ねぇよ」

いけ好かないのは事実だが、これも王の処世術だと言われたら、言い返す言葉もない。

あんた…本当、「ご立派」な王様だよ。

フユリ様とは、また別の意味でな。

「それから、イーニシュフェルト魔導学院のことだが」

ナツキ様は、シルナに向かって言った。

「条約締結後も、国営魔導学院として、学院の存続は許可しよう」

国営だってよ。

イーニシュフェルト魔導学院が国営の学校になったら。

シルナはもう、完全にお飾りの学院長に成り果てるな。

今でさえ、学院長としての威厳なんて欠片もないのに…。

「…羽久が私に失礼なこと考えてる気がするけど、頭痛くなりそうでそれどころじゃない…」

「…そうだな」

俺も頭痛いから、お互い様だな。
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