神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
世界魔導師保護条約が締結されても、俺とシルナと、俺の仲間達は、国の所有物にはならない。

イーニシュフェルト魔導学院は、国営にはなるが、学院の存続も約束されている。

ヴァルシーナと対立する危険性は残る…が、それはナツキ様の手を取る取らない関係なく、昔からそうだし。

…仕えるべき国の王を変える「転職」の条件としては、最高の高待遇かもな。

ましてや、こうして皇王自らが引き抜きに来てくれているのだから。

こんなに名誉な転職はあるまい。

まぁ、正しくは…ナツキ様は俺じゃなくて、シルナを引き抜きに来たんだけどな。

俺は付属品みたいなもんだ。

だから、イエスと言えどもノーと言えども、俺はシルナの決めた方についていくよ。

「…どうする?シルナ」

返事は分かっているが、一応聞いてみる。

「…そうだね…」

シルナは苦笑いで、俺を見つめていた。

その目を見れば分かる。シルナが何を言いたいのか。

「すぐに決める必要はない。他の仲間達とも、相談する時間が必要だろう」

と、ナツキ様は言った。

相談…ね。

この話をルーデュニア聖王国に持ち帰って、俺の仲間達に相談して。

果たして彼らは、ナツキ様の出した条件を聞いて、どのような反応をするだろうな?

「返事は保留にしてもらって構わない。近いうちに、また…」

「いや。…この場で返事をするよ」

シルナは、ナツキ様の言葉を遮るように言った。

そうだな。

持ち帰って相談したところで、結論は変わらないだろうからな。

「…良いのか?仲間と話し合わなくて」

「うん…。話し合ったとしても、答えは変わらないと思う」

シルナもそう思ってるらしい。

「そうか。…それなら聞こうか。君の答えは…」

「申し出は有り難いけど、私はフユリ様を…ルーデュニア聖王国を裏切るつもりはないよ」

「…」

シルナはきっぱりとそう答えた。

…だろうと思ったよ。

ナツキ様はその返事を聞いて、露骨に顔を曇らせた。

おいおい、冗談だろ。

その程度の転職条件で、まさか俺達が本気でルーデュニア聖王国を裏切ると思ったのか?

だとしたら、甘く見られたもんだ。
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