神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「…ここまで言ってもなお、ルーデュニア聖王国の女王につくのか?」

フユリ様のことか?

「違うよ。私は厳密には…フユリ様じゃなくて、ルーデュニア聖王国についてるんだ」

シルナはそう答えた。

俺も同感だ。

俺は「生まれた」ときからずっと、ルーデュニア聖王国に根を下ろして生きてきた。

ルーデュニア聖王国で暮らし、ルーデュニア聖王国で仲間を作り、共に生きてきた。

あの国に愛着がある。

イーニシュフェルト魔導学院を含めて、自分の大切な場所だと、胸を張って言える。

失わせたくない。

これまでも、これからもだ。

「だから、君と一緒には行けない。…申し訳ないけど」

「…それは残念だ。シルナ学院長は、どうやら正しい選択を選べないらしい」

生意気な。

ルーデュニア聖王国を見限ってアーリヤット皇国につくのが正しい選択だと、誰が決めたんだ?

何が正しいのかなんて、決めるのはお前じゃない。

「自分が何を言ってるのか分かってるのか?俺の誘いを断るということは…アーリヤット皇国と敵対する道を選ぶということだ」

おいおい。

懐柔策が無理なら、今度は脅しか?

何でもアリだな。アーリヤット皇国の皇王様は。

余程、シルナを敵に回したくないと見える。

その認識は正しいが、しかしその程度の脅しで、シルナが揺らぐと思ったら大間違いだ。

「自分の国を、学院を、戦場にするつもりなのか?もう一度よく考えてみると良い。どうするのが正しいか…」

「…うん。私は戦争なんて嫌いだよ。良い思い出ないし…」

…だろうな。

「学院を戦場にもしたくない。だけど…君に従って学院を存続させたとしても、学院を卒業する魔導師達は、皆、君の所有物になるんでしょ?」

「…それは…」

…まぁ、そうだな。

世界魔導師保護条約に従えば、そうなるな。

俺達教員は、特例保護魔導師に認定されてるから、自由に魔法を使えるけど。

学院の存続も許されて、イーニシュフェルト魔導学院でこれからも教鞭を執ることか出来るけど。

そうやって育てた教え子達は、卒業しても、自分の好きなように進路を選ぶことは出来ない。

条約によって、自動的に国の所有物になってしまう。

イーニシュフェルト魔導学院は、国の便利な道具を育成する為に存在する訳じゃない。

それじゃあ、学校じゃなくて工場だ。

王様に仕える、便利な道具を造る工場。

せっせとナツキ様の道具を作るなんて、俺は御免だね。
< 421 / 699 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop