神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「それにね、いくら私達だけが特権を認められとしても…。自分だけ特別扱いされても、私は嬉しくないよ」
と、シルナは続けて言った。
シルナはそうだろうと思ったよ。
世界中で多くの魔導師が虐げられているのに、自分だけ特別扱いされても、嬉しくない。
俺もそうだ。
申し訳なくてならないだろう。申し訳なくて、居たたまれなくて。
自分だけ特別扱いされてごめんなさいって、そんな罪悪感に駆られるのは嫌だ。
それならいっそ、特権なんて要らない。
自分だけは早々に救助されて、安全なところから、助けが間に合わずに逃げ惑う人々を眺めるだけ、なんて。
シルナにとっても俺にとっても、そんなの耐えられないから。
だったら、自分達も逃げ惑う人々の一人になった方がマシだよ。
「だから、君の誘いは受けられない。ごめんね」
「…」
再考の余地などない。シルナの意思は固い。
その顔を見れば分かる。
ナツキ様はしばし、じっと無言でシルナの顔を見つめ返していた。
これほどの「高待遇」を約束しているのに断るなど、馬鹿だと思ってるんだろう?
そう、馬鹿なんだよ。俺達。
いつだってそうだ。正しい道を選べない。
正しい道から目を逸らしながら、これまで生きてきた。
だからこそ俺達はこれからも、正しい道に背を向けて生きるよ。
例え、そのせいで後悔することになろうとも。
「アーリヤット皇王ナツキ様には、冷静な判断を求めます。両国の民を傷つけることなく、平和的に解決出来る道を」
シルナはナツキ様に、戦争を避けるよう促した。
「ひいては、まず…妹君であるフユリ様と話し合って欲しい」
「…」
フユリ様の名前を出すなり、ナツキ様は目を吊り上げた。
彼が自分の妹をどう思っているのか、その顔を見れば一目瞭然である。
しかし、シルナは構わずに続けた。
「再三、ルーデュニア聖王国から要請が届いているよね?話し合いに応じて欲しいと。私の相手をするんじゃなく、フユリ様との話し合いを考えて欲しい。直接会わなくても、手紙のやり取りでも構わないから」
フユリ様は必死に、アーリヤット皇国との衝突を避けようとしている。
だからナツキ様も、その思いに応えて欲しい。
両国の無辜な民に、一滴の血も流させない為に。
「何なら、私が間に入って仲介役を務めても良い。とにかく、争いを避ける道を…」
「…たかがイチ魔導学院の教師が、出過ぎたことを言うな」
ナツキ様は眉間を指で抑え、低い声でそう言った。
部屋の温度が、一気に10℃くらい下がったような気がする。
さっきまでの愛想笑いは、何処へやら。
本性現しやがったな。
今、目の前にあるこの大量のお菓子を食べても、多分その味なんて全く感じられないに違いない。
と、シルナは続けて言った。
シルナはそうだろうと思ったよ。
世界中で多くの魔導師が虐げられているのに、自分だけ特別扱いされても、嬉しくない。
俺もそうだ。
申し訳なくてならないだろう。申し訳なくて、居たたまれなくて。
自分だけ特別扱いされてごめんなさいって、そんな罪悪感に駆られるのは嫌だ。
それならいっそ、特権なんて要らない。
自分だけは早々に救助されて、安全なところから、助けが間に合わずに逃げ惑う人々を眺めるだけ、なんて。
シルナにとっても俺にとっても、そんなの耐えられないから。
だったら、自分達も逃げ惑う人々の一人になった方がマシだよ。
「だから、君の誘いは受けられない。ごめんね」
「…」
再考の余地などない。シルナの意思は固い。
その顔を見れば分かる。
ナツキ様はしばし、じっと無言でシルナの顔を見つめ返していた。
これほどの「高待遇」を約束しているのに断るなど、馬鹿だと思ってるんだろう?
そう、馬鹿なんだよ。俺達。
いつだってそうだ。正しい道を選べない。
正しい道から目を逸らしながら、これまで生きてきた。
だからこそ俺達はこれからも、正しい道に背を向けて生きるよ。
例え、そのせいで後悔することになろうとも。
「アーリヤット皇王ナツキ様には、冷静な判断を求めます。両国の民を傷つけることなく、平和的に解決出来る道を」
シルナはナツキ様に、戦争を避けるよう促した。
「ひいては、まず…妹君であるフユリ様と話し合って欲しい」
「…」
フユリ様の名前を出すなり、ナツキ様は目を吊り上げた。
彼が自分の妹をどう思っているのか、その顔を見れば一目瞭然である。
しかし、シルナは構わずに続けた。
「再三、ルーデュニア聖王国から要請が届いているよね?話し合いに応じて欲しいと。私の相手をするんじゃなく、フユリ様との話し合いを考えて欲しい。直接会わなくても、手紙のやり取りでも構わないから」
フユリ様は必死に、アーリヤット皇国との衝突を避けようとしている。
だからナツキ様も、その思いに応えて欲しい。
両国の無辜な民に、一滴の血も流させない為に。
「何なら、私が間に入って仲介役を務めても良い。とにかく、争いを避ける道を…」
「…たかがイチ魔導学院の教師が、出過ぎたことを言うな」
ナツキ様は眉間を指で抑え、低い声でそう言った。
部屋の温度が、一気に10℃くらい下がったような気がする。
さっきまでの愛想笑いは、何処へやら。
本性現しやがったな。
今、目の前にあるこの大量のお菓子を食べても、多分その味なんて全く感じられないに違いない。