神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
荷物を片付けるのを後にして、とにかく疲れを取ろうとベッドに倒れ込み。

あっという間に眠りについて、気がついたら日が暮れていた。

爆睡してたよ、我ながら。

危うく、朝まで寝過ごすところだった。

改めて身支度を整えて、学院長室に向かうと。

「あ、羽久おはよー」

「…シルナ…」

学院長室で待っていたシルナは、俺のように寝過ごしてはおらず。

代わりに、デカい皿にホールのチョコケーキをでんと乗せて。

フォークを使って、もぐもぐとそのケーキを貪っていた。

…大丈夫か?この人…。

「シルナ…お前、何してんの?」

「え?疲れたから、チョコケーキ食べてエネルギーを補充しようと思って」

「…あ、そう…」

そんな当たり前みたいな顔して言われたら、俺としても何も言い返せない。

普通、一般人だったら、疲れを取るには睡眠が一番だと思うんだけど。

シルナは寝る代わりに、チョコレートを摂取することで疲れを癒やすらしい。

「ちなみに、ケーキの前にチョコシュークリームと、チョコアイスたっぷりのパフェを貪り食ってましたよ」

と、ナジュが教えてくれた。

へー、そうなんだ。

…それは食べ過ぎだよ。

デブまっしぐらだな。もう好きにしてくれ。

イレースじゃないけど、まさにパンダ学院長の異名に相応しい暴飲暴食。

「羽久が私に失礼なこと考えてる気がするけど、チョコケーキが美味しいから、まぁいっか〜」

と、シルナは幸せそうな顔でチョコケーキにぱくついていた。

幸せそうで何より。

「全く、遅いですよ。あまりに起きてこないから、叩き起こしに行こうかと思っていたところです」

イレースは眉間に皺を寄せて、俺に小言を溢した。

ごめんって。悪かったって。

良かった、俺。すんでのところで自分で目を覚まして。

危うく、寝起きにイレースビンタを食らうところだった。

うっかり永眠しかねない。

「まぁまぁ…疲れてるんだよ。無理もないよ。ずっと気の休まる暇もなかったんだろうから…」

優しい天音は、寝坊した俺を責める代わりに、そう言って庇ってくれた。

ありがとう。お前は優しいな。

「無事に帰ってきてくれたんだから、それで良しにしようよ」

「…って、天音さんは一件落着したみたいに言ってますけど」

ナジュが、じっと俺を見つめながら言った。

「どうやらこの人達、厄介事を抱えて戻ってきたようですよ。果たしてこれを無事に戻ってきたと言えるのか」

…早速俺とシルナの心を読んで、いち早く事態を把握したらしい。

こればかりはナジュの言う通りで、言い返せないのが辛いところだ。
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