神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「そうでしょうね。この人達のことですから、どうせまた面倒事を背負ってきたんでしょう」

と、苛ついた溜め息混じりのイレース。

そうなんだけど、でもそれって俺のせいじゃないから。

俺を責めるのはやめてくれよ。

「面倒事って何?アーリヤット皇王に宣戦布告でもされたの?」

「いやー、逆にこっちが宣戦布告しちゃったんじゃないの?」

令月とすぐりの二人が、あっけらかんととんでもないことを口にした。

お前ら…そんなへらへらして言うことじゃねーから。

でも、あながち間違ってるとも言えないのが辛いところ。

宣戦布告…しちゃったようなもんだよなぁ。

結局、交渉は真っ二つに決裂。

ナツキ様と…アーリヤット皇国と、真っ向から対立する羽目になった訳で。

最早、取り返しもつかない。

「どうせあなた方のことですから、あやふやにぼやかすこともせず、馬鹿正直にアーリヤット皇王に反発したんでしょう」

ぎくっ。

イレース…お前本当、俺達のことよく分かってるよな…。

「だって…しょうがないだろ」

何て言えば良かったんだよ。他に。

嘘でも冗談でも、ナツキ様の提案を受け入れるつもりはなかったんだから。

他に言えることは何もなかった。

「なんだ。一応、ちゃんとナツキが来たんだね」

「ヴァルシーナの罠は?なかったの?」

令月とすぐりが言った。

「あ、うん…。むしろナツキ様は、アーリヤット皇国にヴァルシーナが来てることをカミングアウトしてきたよ」

「へー」

まぁ、令月とすぐりからの事前情報のお陰で、全く驚かずに済んだんだが。

「で、ナツキ様は、ヴァルシーナには内緒で俺達に会いに来たらしい」

「何の為に?」

「それは…。…えぇと、話せば長くなるんだが…」
 
「良いよ。長くなって良いから話して」

「…分かった」

じゃあ、ちょっと聞いてくれ。

俺とシルナは、ナンセイ民主共和国で起きたことを、時系列順に話して聞かせた。

イレース達は、黙って腕組みをして聞いていた。

イレースがあまりに不機嫌そうな顔をしているから、途中でキレるんじゃないかと心配だった。

だが、話の腰を折ることなく、最後までちゃんと黙って聞いてくれたよ。

キレられたとしても、俺のせいじゃないからな。

怒るなら、あんな馬鹿げた提案をしたナツキ様に怒ってくれよ。
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