神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「…ってことがあって、無事に帰ってきた」

ようやく、全部話し終えた。

やれやれ。今更ながら、なかなかに波乱万丈な旅をしたもんだ。

もう二度と行きたくないね。

各々、黙って話を聞いていた者達の反応は。

「…どうせろくでもないことだろうと思ってましたが、本当にろくでもないですね」

イレースは、眉をしかめてこう言った。

そうなんだよ。

「私達を特例保護魔導師に認定するから、条約締結に協力しろ?なんと浅はかな考えを」

「うん…。学院長先生達は断ったけど、同じ提案をされたら、呑む人はいるだろうね」

天音が頷いて言った。

俺もそう思う。

万が一のことがあっても、自分だけは特別扱いしてもらえる、と保証されていたら。

それなら、とばかりにナツキ様に手を貸す魔導師は、いくらでもいるだろう。

現に今、ナツキ様に味方している全ての魔導師は、特例保護魔導師に認定することを約束されているのだろうし。

そうでなきゃ、魔導師がナツキ様に味方する理由がない。

「馬鹿馬鹿しい。そんな口約束、本当に守られるかどうか分かったものじゃないでしょう」

と、イレースは一刀両断した。

…うん。

…それを言っちゃおしまいだろ。

でも…イレースの言う通りなんだよな。

「条約締結に協力してくれた暁には、君を特例保護魔導師に認定してあげる」というのは。

あくまで、ナツキ様の口約束でしかない。

書面がある訳でもないし、書面があったとしても、「そんな約束知らない」としらばっくれられたら、それで終わり。

あのナツキ様なら、いかにもやりかねないと思わないか?

「特例保護魔導師にしてあげる、って口約束で散々利用された挙げ句…。実際に条約が締結された後、手のひらを返されるかもしれない」

「確かに。そもそも、本当に特例保護魔導師制度なんて存在するのかな?」

「あー。口から出任せかもしれないねー」

…マジで?

でも、令月とすぐりの言う通り、その疑惑は最もだ。

魔導師を味方につける為に、特例保護魔導師制度をでっち上げたってだけで。

本気で、特例保護魔導師を認定するつもりなんてあるのだろうか。

…分からん。が、全部ナツキ様の嘘だったとしても不思議はない。

「そう…。あの人、また…。今度はシルナ・エインリー学院長達を手駒にしようと…」

「…マシュリ…」

陰鬱な顔色のマシュリを見て、何だか酷く申し訳なくなった。

…ごめん。マシュリにとっては、あまり聞きたい話じゃなかったよな。

「マシュリ…。聞きたくなかったら、退室しても…」

「…いいや、聞くよ。あの人のやり口は分かってる。…いつもの手段だよ」

…そうか。

じゃあ、やっぱり断って良かったんだよな?
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