神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
何度考えたって、ナツキ様の提案を呑むなんて選択肢は有り得なかった。

だから、これで良かったのだ。

…良かったんだよ、な?

「結局、アーリヤット皇国との交渉は決裂したんですね」

「結果的に、両国の関係は更に緊張状態…。…戦争まっしぐらですね」

イレースとナジュが、あっけらかんとして言った。
 
おい、やめろって。

考えないようにしてたのに。

そんな軽々しく、戦争とか言わないでくれ。

「しょうがないんじゃないですか?お互い、主張を譲れない者同士なんだし。遅かれ早かれ、こうなることは目に見えてたんですよ」

「それは…そうかもしれないけど。でも…無関係のルーデュニア国民を、戦火に巻き込む訳にはいかないだろ」

「羽久さん、あなた良い人ですね。僕の生まれ故郷の偉い人も、羽久さんみたいな考えだったらなぁ」

…悪かったよ。思い出させて。

「何とか、争いを避ける方法を見つけないと…。多くの人が血を流す前に…」

と、いう天音の呟きに。

「殺しに行こうか?」
 
令月が、何とも物騒な一言で答えた。

これには、俺もぎょっとした。

「そーだね。それが一番手っ取り早いかも」

すぐりまで。

「殺しに行くって…。どういう意味だよ?」

「言葉通りの意味だけど…。アーリヤット皇王さえ殺してしまえば、戦争は防げるんじゃないの?」

…それは…。

…そう、なんだろうか?

「だったら、宣戦布告される前に殺せば良いよ。一人の犠牲で多くの命を救えるなら、それは必要な犠牲だ」

「…」

今ばかりは、令月とすぐりの物騒な提案を、真っ向から否定出来なかった。
 
…全ては、国を守るという大義名分の為。

その為に…ナツキ様を暗殺する。

それで多くの命が守られるなら…これも一つの選択肢かもしれない。

令月とすぐりにやらせるつもりはないけどな。

子供にはやらせられない。そんな重い責任を負わせられない。

やるなら、大人がやる。

「暗殺…暗殺か。でも、そんな短絡的な方法で、本当に事態が終結するとは…」

「大火事を防ぐ為に、小さなボヤくらいは覚悟しないといけないんじゃないの?」

大人なんかより、令月達の方がよっぽど腹が据わってるな。

羨ましいよ。

「それに、フユリ様が何と仰るか分からないよ。まずはフユリ様に報告して、それからどうするか話し合って…」
 
「何それ?ゆーちょーだなー。そんなことしてる間に、今にもアーリヤット国軍が大挙して押し寄せてくるかも、」

と、すぐりが言いかけた、そのとき。

「学院長先生っ、皆さん…!」

「えっ、えっ…。シュニィちゃん?」

突然、学院長室の扉が開き。

そこに、息を切らせて青ざめた顔をしたシュニィが飛び込んできた。
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