神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
――――――…ルーデュニア聖王国の港に、アーリヤット国軍が押し寄せてきたとき。

現場の一番近いところにいたのは、俺とベリクリーデの二人だった。

一番近いところって言うか…。丁度、件の港にいた。

もっと正しく言うと、港近くのアイスクリーム屋にいた。

何でそんなところにいたのかって?

買い食いだよ。ベリクリーデのな。

丁度この日は、港の近くで任務があった。

その任務を終えた帰り、ベリクリーデがアイスクリーム屋を指差したのだ。

「あれカラフルで、キラキラしてて面白いね」とか言って。

ベリクリーデが指差した「あれ」とは、店の前に設置された、アイスクリームのオブジェであった。

丸くくり抜いたカラフルなアイスクリームが、7段くらい乗っかってる巨大なオブジェ。

確かに目を引かれる置き物だが。

さすがに、任務帰り終わったとはいえ、シュニィへの報告もあるんだし。

アイスはまた今度にして、先に帰って報告を済ませよう…と。

俺が言う前に、ベリクリーデは勝手にアイスクリーム屋に突入していた。

話を聞けよ。あいつ。

こうなると、もう引き返せない。

ベリクリーデを置いて帰ってやろうか、とも思ったのだが。

港町から王都セレーナまでは、バスを乗り継いで帰らなければならないのに。

あのあんぽんたんベリクリーデが、一人でバスに乗って帰ってこられるとは思えない。

もしかしたら、うっかり乗り間違えて、国境を越えていてもおかしくないのだ。

まさか、さすがのベリクリーデも、勝手に国境は越えんだろう、って?

甘い。その考えは甘いぞ。

ベリクリーデの方向音痴を甘く見るなよ。

最悪、国境付近を彷徨いている、タチの悪い人買いや人攫いに捕まるかもしれない。

こいつならやりかねない。

そうなったら、どうせ俺が探し回る羽目になるので。

大騒ぎになる前に、アイスクリーム屋くらい付き合ってやるよ。

はぁ。

「わー、見て見てジュリス。いっぱいあるよ」

「…そうだな」

そんな俺の心労も知らず。

ベリクリーデは、ショーケースの中に並べられた、カラフルなアイスクリームのフレーバーの数々を眺めていた。

お前が良いならそれで良いよ、俺は。
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