神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「わさびびの味だー」

「…わびさび、な…」

…全く、幼稚園児以下だよお前は。

色でアイスを選ぶな。味で選べ。

と言うか、もう溶けまくって色んな味が混ざり合って、もとの味が分かんなくなってそう。

これだから…。一段か二段にしておけば良かったものを。

せめて、コーンじゃなくて、カップに入れてもらえば良かった。

そしたら、溶けてもこんなにあちこち汚さずに済んだろうに。

「良い歳した大人が、お前…。ほら、口元も拭けって」

「うん」

「あぁほら、また溢してる。右手」

「え?こっち?」

「そっちは左だ。逆。お箸持つ方」

「…おはし?」

駄目だこりゃ。

頼むから、右と左の区別くらいつくようになってくれ。

「アイス食べるのって、結構大変なんだね。ジュリスがいてくれて良かった」

お前が下手過ぎるんだよ。

他の人は普通に食べてるから。アイスのせいにするな。

「今度から私、アイスを食べるときは必ずジュリスを呼ぶことにするよ」

「…あのな、そうじゃなくて。一人でも綺麗に食べる努力をしてくれ」

お前がアイスクリームを食べる度に、お世話係に呼ばれる俺の身にもなってくれ。

こんな風にして、俺のハンカチをアイスクリームでべったべたにしながら。

「ふー。食べた。美味しかった」

「…良かったな」

その10分後に、何とかベリクリーデもアイスクリームを完食した。

最後はもう、溶けたアイスがジュースみたいになってた。

それでも、「もう要らない」とか言わずに、責任を持ってちゃんと最後まで食べきったのは、褒めるべきだろうな。

何だかんだベリクリーデも、食べ物を粗末にするという思考はないんだよ。

そこは偉いよな。

まぁ、本当に偉い奴は、食べきれない量を注文しようとはしないが。

「でも、あの緑の奴はいまいちだったかな」

「抹茶味か…。俺は好きだけどな…」

抹茶味って、結構好き嫌い分かれる印象がある。

まぁ、ちょっと独特な癖があるもんな。

好きな人は好きなんだろうけど。

シルナ・エインリーなんかは、露骨に嫌ってそうだな。

俺は甘過ぎるのが苦手だから、抹茶味は嫌いじゃない。

パーフェクトピンクラブリーじゃなくて、是非抹茶味を食べたかったよ。

「…よし。アイスも食べ終わったし…帰るぞ」

「うん」

寄り道のせいで、随分時間を食ってしまった気がする。

早く帰ってシュニィに報告して…それから、今日の報告書も書かないとな。

「ここから、どうやって帰るんだっけ?」

「えぇと…まずは港町からバスを乗り継いで…それから王都に」

「バスかー。じゃああっちかな?」

「おい、待て違う。勝手に歩くな」

油断も隙もあったもんじゃない。勝手にふらふら歩き出すんじゃない。

ハーネスつけておきたい。子供用の。迷子防止のあれ。

そうじゃないとベリクリーデは、ちっともじっとしていない…。

…と、思ったが。

その瞬間、ベリクリーデは突然立ち止まって、くらり、と倒れかけた。

えっ。

「おい、大丈夫か?」

「…」

返事はなかった。

だが、すぐに分かった。

ベリクリーデの中のもう一人が、ベリクリーデと「入れ替わった」のだ。
< 437 / 699 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop