神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「今日は港町で任務があったからな。その帰りだ」

俺は、ベリーシュにそう説明した。

「そうなんだ…。港町で、何してたの?」

「いや、輸送船の積み荷の確認にな」

「…?」

ごめん。この説明じゃアバウト過ぎて分からんよな。

そうだな。もっと詳しく言うと…。

「今朝、シュニィに頼まれたんだよ。どうも最近、ルーデュニア聖王国に届く輸入品の積み荷の中に、怪しいものが紛れ込んでることがあるって…」

「積み荷の中に、怪しいもの…?何、それ?」

「さぁ。俺にも分からない。分からないから、調べに来たんだ」

「あ、そうか…」

怪しいもの…って言われてもなぁ。

怪しいの定義が広過ぎて、具体的に何を意味するのか分からない。

「積み荷の中にあるってことは、輸入品じゃないの?」

「輸入品とはまた別らしいぞ。食糧品や衣料品の中に、無造作に紛れ込んでるらしくて…」

「それは…気味が悪いね。何なんだろう?」

そう。気味が悪いだろう?

だから、今日俺達が派遣されてきた訳だ。

積み荷の中に紛れ込んでるっていう、怪しいブツの正体を確かめにな。

そのブツが一体何なのか、何処から送られてきたものなのかを、調査しに来た。

…しかし…。

「見つかったの?」

「…いや、残念ながら」

輸送船の乗組員に無理を言って、彼らの見ている前で、積み荷の中身をいくつか検めさせてもらった。

が、俺達が確認したところ、怪しいブツとやらは見つけられなかった。

この港町は、ルーデュニア聖王国最大の貿易港。

一日に届く積み荷の数は、ざっと数えても千を越える。

その全ての中身を開けて、いちいち調べる訳にもいかず。

適当に選んだ積み荷を開けては、中身を確かめたのだが…。

どうやら、「当たり」は引けなかったらしい。

…そりゃまぁ、そうだよなぁ。

「当たり」なんて、何分の1だよ?

港町に届く、全ての積み荷を検める訳にはいかないからな。

そんな途方も無い作業をしてたら、時間がいくらあっても足りない。

「今日は収穫ゼロだ。シュニィに相談して…明日も来るかどうか、指示を仰ぐつもりだ」

「そっか…。…こんなに広い港じゃあ、探しものをするのも一苦労だね」

その通りだ。

ついでに、俺にはベリクリーデのお守りという、この上なく厄介な役目を抱えてるからな。

港町なんかであいつを放っておいたら、間違えて船に乗り込んで、気づいたら外国に運ばれてるかもしれない。

まさか、いくらベリクリーデでもそんなこと、と思ったお前。

お前は甘い。

あいつならマジで、そのくらいのこと日常茶飯事だから。

落ち着いて探しものなんて、とてもじゃないけど無理。

今更だが、この任務…人選間違えてね?
< 439 / 699 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop