神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…なんて、今更愚痴っても仕方ないな。

シュニィにはシュニィなりの考えがあって、俺とベリクリーデを派遣したんだろうし…。

「まぁ、あくまで噂だしな…。怪しいブツってものの正体も分からないし…」

「でも…火のないところに煙は立たないとも言うしね。ただでさえ今は、アーリヤット皇国との騒動もあって、諸外国との関係も安定しないし」

だってよ。

ベリクリーデと同じ口から発せられる言葉とは思えん。

「よく知ってるな、ベリーシュ…」

「ベリクリーデの人格のときも、起きて一緒に会議に参加してたことが何度もあるから」

そうか。

じゃあ、会議のときと任務のときは、もっと積極的にお前が出てきてくれ。

俺の負担が減るどころか、力強い助っ人になってくれそうだ。

「明日も調査に来るの?」

「さぁ…。シュニィの指示次第だな。そのときはベリーシュ、お前が…」

ベリクリーデの代わりに来てくれたら、物凄く助かるのだが…と。

言いかけたそのとき。

「…ジュリス」

ベリーシュは港の方を向いて、表情を曇らせた。

「どうした?」

「…嫌な感じがする」

…何だと?

嫌な感じって…それは、もしかして。

「港に戻ってくれる?…確かめたいの」

「分かった。すぐ行こう」

これが他の人物だったら、何を馬鹿なことを、と一笑に付されていただろうが。

ベリクリーデやベリーシュの直感を、笑い飛ばして無視することは出来なかった。

…それに、気の所為かもしれないが。

このタイミングで、突然ベリーシュか目を覚ましたことに、何か深い意味があるのではないかと勘繰らずにはいられなかった。

俺とベリーシュは、急いで来た道を引き返し始めた。

「それ」は、港に近づくにつれ、はっきりと見えてきた。

「…!何なんだ、あれは…!?」

「…船…」

そう、船だった。

港に船が集まっている。ここはルーデュニア聖王国最大の貿易港なのだから、当然の景色だ。

しかし、それはまさに、異様な景色だった。

何故か?

その船は、いつもの貿易船ではない。

無骨な鉄の大砲をこちらに向けた、戦艦だったからである。

誰がどう見ても、ただごとではなかった。
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