神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
ベリーシュの直感は当たっていた。

突如として港に押し寄せた戦艦の数々に、港は騒然としていた。

騒然と…と言えば聞こえは良いが。

既に現場は、パニック状態にあった。

誰もが怯え、おののき、激しく動揺していた。

当たり前だ。

突然、何隻もの戦艦が押し寄せてきたら、誰だってそうなる。

ましてやルーデュニア聖王国の民は、悪い意味で「平和ボケ」しているから。

建国以来、まともに他国と戦争をしたことがない。

そのせいで、このような非常時にどう対処すれば良いのか分からないのだ。

平和過ぎるのも、考え物だな。

しかし、こうなってしまったものは仕方ない。

「通してくれ!聖魔騎士団だ!」

「皆、落ち着いて!落ち着いて避難して!」

一目散に港から離れようと、押し寄せる人の波に押されながら。

俺とベリーシュは、人混みをかき分けかき分け、港の方に向かって進んでいった。

「何なんだよ、あれは…。何処の国の船だ?」

「分からない。ここからじゃ…。…あっ」

「どうした?」

ベリーシュは、遠くに見えているひときわ大きな戦艦を指差した。

「あれ、見て。国旗が立ってる」

「…!あれは…」

でかでかと掲げられた国旗。あれには見覚えがある。

言うまでもない。

「…アーリヤット皇国か…!」

さもありなん。

今のルーデュニア聖王国とアーリヤット皇国の緊張状態を考えれば、こうなってもおかしくないだろう。

確か今…シルナ・エインリーと羽久・グラスフィアが、アーリヤット皇王に呼び出され。

遥々ナンセイ民主共和国に行って、アーリヤット皇王と直談判しているらしいが。

あれはどうなったんだろう。あいつら、もう帰ってきたのだろうか?

そこでどんな会話が交わされたのか、俺には分からないが。 

交渉が決裂したらしいことは、この光景を見れば一目瞭然だな。

結局、敵対する以外の道はないということだ。

…だからって、これはいくらなんでも早過ぎないか?

まるで、ずっとこうなる機会を伺っていたような…。

「…ジュリス」

つい、一人で考え込もうとしてしまったところを。

ベリーシュに声をかけられて、我に戻った。

…そうだな。考えるのは後回しだ。

「悪かった」

今は、目の前の状況を何とかしなければ。
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