神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
御大層な戦艦の砲身は、真っ直ぐこちらに向けられている。

当然港にいた関係者は、それを見てパニックになって逃げ出したが…。

俺とベリーシュは、それほど恐れては居なかった。

砲台くらいじゃあ、俺もベリーシュも殺せないからな。

その余裕もあるんだが、それ以上に…。

「…大丈夫だ。撃ってくる心配はない」

少なくとも、今はな。

「うん、私もそう思う」

と、ベリーシュも頷いてみせた。

だろうな。

何故そう思うのかって?…それは簡単だ。

撃つつもりなら、とっくに撃ってるはずだ。

港が射程圏内に入った時点で、容赦なくぶっ放せば良い。

それだけで、今頃港は海の藻屑だ。

それをせず、わざわざこんな近くまで近寄ってきて。

これ見よがしに砲身を向けて、脅しを掛けてくる。

こいつらの目的は脅しであって、本当に撃つつもりはない。

だから、そこはひとまず安心…なのだが。

だからって、銃口を向けられた上に、トリガーに指をかけた状態で、心から安心なんて出来るはずもなく。

トリガーを引きさえすれば、その瞬間に、争いの火蓋が切って落とされる。

港に残っている、大勢の無辜なルーデュニア聖王国民に被害が出る。

…それだけは避けなければ。

「…ベリーシュ、星辰剣を」

「うん、分かった」

この場に俺達がいて良かったな。

と言うか、ベリーシュの直感に従って戻ってきて、本当に良かった。

ここに俺達がいる限り、少なくとも港の人々に被害は出させない。

俺はベリーシュに星辰剣を託した。

いざとなれば、鉄の砲弾くらいはベリーシュが真っ二つにしてくれるだろう。

それだけじゃない。俺も…、

「…!ジュリス、見て。誰か降りてくる」

「何?」

ベリーシュに言われ、彼女が指差す方を見ると。

港に寄せられた小型艇から、白い燕尾服のような衣装に身を包んだ女が降りてきていた。

…何だあいつ。誰だ?

…誰であれ、俺達の敵であることは違いないだろうな。

入国許可もなしに、我が物顔でルーデュニア聖王国の港に足を踏み入れるとは。

それって不法入国だからな。

そもそも、許可なくルーデュニア聖王国の領海に踏み入ることも罪だから。

さて、この落とし前をどうつけてもらおうか。
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