神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
ともかく、話してみないことには分からないな。

俺とベリーシュは、港に足を降ろしたその女のいる方に急いだ。

「そこで何をしてる?」

俺は、封印していた『魔剣ティルフィング』を召喚した。

出来れば使いたくはないが、国を守る為なら致し方あるまい。

何より、ベリーシュ一人に任せる訳にはいかなかった。

もし開戦の火蓋が切って落とされるなら、その責任は俺が負う。

ベリーシュにはやらせない。

「お前は誰だ?…アーリヤット皇国の手の者か?」

「…」

俺は『魔剣ティルフィング』をその女に向け、殺気を滲ませながら問いかけた。

腰まで届く長い髪も、着ている服も、肌や瞳の色さえも、何もかもが不気味なほどに真っ白だった。

その白女は、じっと黙って俺を見つめ返した。

「名を名乗れ。ここはルーデュニア聖王国の領土だ。許可なく立ち入ることは許されない」

人様の国に勝手に入るのは違法。

それくらいのことは、常識として知っていて欲しかったんだがな?

どうやらアーリヤット皇国は、その辺の常識がルーデュニア聖王国とは合致しないらしい。

まぁ、あんな王様が上に立ってるくらいだからな。

こちらの常識は通用しないだろう。当然だが。

だが、ここはルーデュニア聖王国だ。

いかにお前達が非常識集団だとしても、郷に入っては郷に従ってもらうぞ。

「…そちらこそ、誰です」

白女がようやく口を利いた。

背筋も凍りそうな、冷たい声だった。

口を開いたかと思ったら、質問かよ。

「聞いてるのは俺だ。お前が先に答えろ」

許可もなく、勝手に上陸してきて不埒者に。

何故俺が、自分からご丁寧に自己紹介してやらなければならないんだ。

「私の名はハクロ」

と、白女が答えた。

ハクロ…ハクロね。

「アーリヤット人だな?」

「そうです」

「何故ここに来た?…アーリヤット皇王の命令か?」

「そうです」

…やはりそうか。

そんなことだろうと思ったよ。

「…ジュリス、この人嫌な感じがする」

ベリーシュが、そっと俺の耳元で呟いた。

…また、それか…。

じゃあ、さっきベリーシュが感じた嫌な気配は、この女が元凶なのかもしれない。

そう言われると、確かに不気味なものを感じるな。
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