神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
さて。

息をつく間もなく、突然奇襲を受けて開戦…にはならなさそうで、安心したが。

港に残って逃げ惑っている国民達は、相変わらずパニック状態だった。

砲身を向けられて、安心しろって言う方が無理だろう。

…こうなったら、仕方ない。

「…ベリーシュ、この場を頼めるか?」

この混乱、パニックを収める人間が必要だ。

俺がやっても良いのだが、俺はハクロをフユリ女王のもとに連れて行かなければならない。

逆に、ハクロはベリーシュに送ってもらって、俺がここに残るという選択肢もあったが…。

この女が何考えてるか分からないのに、ベリーシュと二人きりには出来ない。

だから、残るならベリーシュだ。

「…分かった。任されたよ」

ベリーシュは星辰剣を握って、確かに頷いた。

ありがとう。

お前が出てきてくれて、心底助かったよ。

「だけど、ジュリス…。くれぐれも気をつけて」

ベリーシュは、ハクロに聞こえないように小声で呟いた。

「お前も気をつけろよ。フユリ女王に会うまでは何もしてこないと思うが…。戦果に逸った馬鹿が、命令無しで撃ってくるかもしれない」

その危険は充分有り得る。

だから、安心しきれないってさっきから何度も言ってるんだ。

引き金は恐ろしく軽いが、その引き金を引く責任は、恐ろしく重いのだ。

もしそうなったとき…ベリーシュには、この港に残っている人々を守って欲しい。

誰も死なないよう、誰も傷つかないように。

しかし、ベリーシュが気にしているのはそういうことではなかった。

「あの人、嫌な感じがするから」

…あぁ。さっきも言ってたな。

「何してくるか分からない…。気をつけて、ジュリス」

「…分かった。肝に銘じておく」

折角ベリーシュが警告してくれているんだ。

フユリ女王のもとに送り届けるまで…いや、送り届けた後も…警戒は解かないよ。

それに、ベリーシュの警告がなかったとしても、俺もこの女に奇妙なものを感じていた。

「絶対戻ってきて。私、ジュリスが戻るまでここで待ってる」

「分かった、戻ってくる…。じゃあ、後でな」

「うん」

俺は、ベリーシュにこの場を任せ。

アーリヤット皇国からの使者、ハクロを連れて、フユリ女王のいる王都セレーナを目指した。
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