神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
俺達が王宮に着いたとき、ジュリスもまた、ハクロを連れて王宮に辿り着いていた。

そのハクロという女は、フユリ様のいる謁見の間に通されていた。

「…あなたが、兄上からの使者ですか」

「そうです。お初にお目にかかります、フユリ女王陛下」

礼儀正しそうに見えて、フユリ様に対する敬意なんて全く伝わってこなかった。

俺でさえ人目で分かるんだから、フユリ様にも当然分かっているだろう。

あれが…アーリヤット皇国からの使者。ハクロとかいう女…だっけ。

もしかして、マシュリの知り合いだったりするのだろうか?

「我が国の貿易港に、随分不躾な『お客人』を連れてきたそうですが」

フユリ様の口調は、珍しく刺々しいものだった。

無理もない。

自国の領土を、突然アーリヤット皇国に侵されたのだ。

敵意があるのは、火を見るより明らかというものだ。

「これはどういうつもりですか」

「…お話の前に、フユリ女王陛下」

そう言って。

ハクロはくるりと振り返り、側近ヅラして横で見ていた、俺とシルナとナジュの方を向いた。

な、何だ…?

「こちらの方々は?」

「お気になさらず。私の…臣下の者です」

と、フユリ様は誤魔化して言ってくれた。

臣下…。俺達は王宮の人間ではないから、厳密にはフユリ様の臣下とは言えないが…。

まさか、イーニシュフェルト魔導学院の関係者ですとも言えず。

しかし、ハクロの方が一枚上手だった。

「あなたの臣下の中には、人の心を読む者がいるそうですね」

…ぎくっ。

…よく知ってるじゃないか。

と思ったが、向こうにはヴァルシーナがいるんだっけ。

そりゃ知ってるに決まってるか。

最悪、例の…心に蓋をして、読心魔法を防ぐ方法、ってのも知ってるかも。

前にすぐりが使ってた奴だな。

ナジュ曰く、あの弱点は克服したらしいが…。

「その読心魔法使いを退席させてください。そうでなければ、何もお話するつもりはありません」

「…」

…俺達の浅知恵などお見通し、ってことか。

「読心魔法使いなんて、この場にはいませんよ」としらばっくれても良かったが…。

その嘘が後でバレて、これ以上アーリヤット皇国との関係を悪くしたら、さすがに洒落にならないもんな。

「…やれやれ、分かりましたよ」

ナジュはお手上げとばかりに、溜め息混じりにそう言った。

「どうやら僕はお邪魔虫みたいなので、退席します」

「ナジュ君…ごめんね」

シルナがナジュに謝っていた。

折角一緒に来てくれたのにな。ナジュだけ一人、外で待ってろとは…。

…でも、他にどうしようもないし。

ナジュには申し訳ないが、外で待っていてもらうしかなかった。
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