神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
いよいよもってさすがにヤバいから。

これ以上、アーリヤット皇国の使者を怒らせない為に、シルナの口を塞いだ方が良い。

あ、いや。

でも、シルナが黙ったとしても、開戦は避けられないんだっけ?

ハクロを激怒させようが、下手に出ようが、戦争の運命を変えられないのなら。

ここはいっそ、シルナに任せて、言いたいことを全部言わせるべきなのでは…?

…。

…って、そんな訳ないだろ。

開戦の運命が避けられないとしても、まだ一発の弾丸も放たれていない。

まだ引き返せるかもしれない。交渉の余地が僅かでも残っているかもしれない。

なら、その希望に賭けるべきなのだ。

断じて、決して、アーリヤット皇国の使者に喧嘩を売っている場合じゃない。

しかし、シルナの舌鋒は止まらない。

「私にとっては、小さな子供が背伸びして、世界の全てを知った気になってるみたいで可愛らしいね」

挙句の果てに、ナツキ様を小さな子供呼ばわり。

大丈夫かシルナ。本当にどうしたんだ?いきなり。

まさか、戦争が避けられないと分かって、自棄っぱちになったのか…?

「だけど、身の程知らずもいい加減にするべきだよ。痛い目を見てからじゃ遅いんだから」

「…何が言いたいのです?」

「これ以上、ルーデュニア聖王国と戦争するなんて馬鹿なこと言ってないで、自分の国で大人しくしてなさいって言ってるんだよ」

…。

なんかもう、今更シルナの口を塞いでも、手遅れのような気がしてきた。

「し…シルナ学院長!何を…」

ようやく我に返ったフユリ様が、慌ててシルナを止めようとした。

が。

「今ならまだ、全部悪ふざけだったことにして見逃してあげるから。冗談はいい加減やめて、早く帰りなさい」

フユリ様さえ無視して、ハクロのことを駄々っ子扱い。

これには、ハクロも冷静さを失い、殺意さえこもった目でシルナを睨んでいた。

そりゃ当然だ。

しかしシルナの方は、殺気を向けられてもなお、素知らぬ顔。

小さい子供が駄々をこねている、みたいな扱いだった。

…シルナの意図が全然読めないんだけど。

これって、シルナの単なる負け惜しみとかじゃないよな?

大丈夫だよな?

…うん。大丈夫だと信じて、シルナに託そう。

どうせ戦争の運命が変えられないなら、それで少しでも状況が改善するなら、シルナに任せるよ。
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