神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「ルーデュニア聖王国と戦争して、本気で勝てるつもりなの?無謀な真似はやめなさい。無駄な血が流れるだけだよ」

まるで、こちらが勝つのは決定事項みたいな言い方。

その自信は何処から?

むしろ俺は、危ういのはルーデュニア聖王国の方だと思うのだが。

だって、この国は俺と同じく、全く「戦争慣れ」していない。

良くも悪くも、皆平和ボケなのだ。俺も含めてな。

歴史を紐解いても、ルーデュニア聖王国が大国との戦乱に巻き込まれた経歴は、一度としてない。

しかしそれは決して、ルーデュニア聖王国が一度も、このような国同士の危機に巻き込まれたことがないからではない。

あわや開戦という危ない状況に陥ったことなら、何度もある。

それでも、ルーデュニア聖王国がこれまで、すんでのところで戦争を避けることが出来たのは。

…全ては、今俺の目の前にいる、この男のお陰なのだ。

「何だか君達、戦えば勝てると思ってるみたいだけど。万が一負けたらどうなるのか、ちゃんと分かってる?」

…煽りまくっていく。

シルナにはシルナの考えがあって、さっきからこうして挑発しまくってるんだろうとは思うが。

俺は、これほど煽りまくって更にハクロや…ナツキ様の機嫌を損ねるんじゃないかと心配だよ。

港にアーリヤット国軍が包囲してる状況なの、シルナの奴、ちゃんと覚えてるよな?

シルナの方こそ、下手な挑発は身を滅ぼすってこと、ちゃんと分かってるか?

内心ハラハラしながら、俺はシルナがハクロを挑発する様を眺めていた。

多分、フユリ様も俺と同じ気持ちだと思う。

「アーリヤット皇国のみならず、アーリヤット共栄圏全ての国が、ルーデュニア聖王国の属国になるんだよ。ルーデュニア聖王国が世界の覇権を握ることになる。…まぁ、そうなったらルーデュニア聖王国としては万々歳だけど」

…えぇと、俺は突っ込まない方が良いんだよな?

例え戦争をしてアーリヤット皇国に勝利したとしても、フユリ様には世界の支配者となる気は全く無い。

アーリヤット皇国以下、アーリヤット共栄圏の国を属国にするつもりなんて、欠片ほどもないはず。

万々歳なんて以ての外。

しかし、シルナは大袈裟に言い続けた。

「その覚悟が、本当にあるの?もう一度よく考えてみたら?負けてからじゃ遅いんだよ」

まるで、こちらが勝つと疑っていないかのような言い方。

そりゃ負けるつもりはないけど…。

でも、さっきから本当に…その自信は何処から来るんだ?

シルナの虚勢じゃないことを祈るよ。
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