神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…。

…ハクロが王宮を去り、退室していたナジュが謁見の間に戻ってきてから。

「…あの、シルナ学院長…」

「…」

おずおずといった風に、フユリ様が声をかけると。

シルナは無言で、ぷるぷると身体を震わせていた。

…えーっと…。

…大丈夫?

「…何だか、大変な大立ち回りをしたようですね。大胆なんだか、小心者なんだか…」

俺達の心を読んで、先程のハクロとのやり取りを理解したナジュが、そう呟いた。

全くだよ。

大変な大立ち回り…そして、危険な綱渡りだった。

ひとまず、最初の綱渡りには成功した…と言っても良いんじゃないか?

少なくとも、今日今すぐ開戦は避けられた。

ハクロがアーリヤット皇国に帰って、ナツキ様の判断を仰ぐまでの間は、僅かながら時間の猶予を得たと思って良いだろう。

今この状況において、一分一秒の価値は重い。

…で、そんな黄金より貴重な時間を稼いだ張本人は。

「…おいシルナ。大丈夫か?」

「…」

やっぱり、無言でぷるぷるしている。

…大丈夫ではなさそうだな。

どうする?このまま放置して、イーニシュフェルト魔導学院に帰ろうか。

時間が惜しいよ。

…すると。

「…ふ、フユリしゃま」

シルナは上ずったような声で、そして半泣きでフユリ様の方を向いた。

噛んでるぞ。

「か、かっ…勝手なこと、勝手に言って、ごめんなさい…」

「あっ…。いえ、その…」

謝るのかよ。

フユリ様、困ってるじゃないか。

「えぇと…。時間稼ぎ…していただいて、ありがとうございました…」

良いんだぞ、フユリ様。はっきり言ってやってくれ。

「私を差し置いて、何を勝手なことを!」って。

怒って当然なのに、フユリ様はむしろ…。

「それに…シルナ学院長にもお考えがあったんですよね?」

理解を示してくれてる。なんて広い心。

「しゅ、しゅみません…」

「いいえ。もう言ってしまったことですし…これからどうすれば良いのかを話し合いましょう。あなたの機転で、状況が少しでも好転したと信じています」

「…ふ、フユリ様…」

「それより、シルナ学院長のお考えを聞かせてくれませんか。決闘…というのは?」

…そうだな。もう言ってしまったものは引っ込みがつかない。

例え見切り発車なのだとしても、今この状況で、そのときに出来る最善を尽くすしかない。

切り替えて、これからどうするのかを話し合おう。
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