神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「ふーん。それで紳士的な戦争…ですか」

ナジュは、胡散臭そうな顔で聞いていた。

「うん。どうかな、ナジュ君…。これなら両国に犠牲も出ないし…」

「いや、大変ご立派な方法だと思いますよ。そう出来たら良いですよね」

それは嫌味か?

「ただし、それは相手が話の通じる国であることが前提ですよね?」

…話の通じる国?

「だって、羽久さん。戦争してる相手なんですよ?殴り合ってる相手なんですよ?『ちょっと拳を収めて、冷静に決闘で決着をつけよう』と言って、果たして話を聞くでしょうか?」

「…!それは…」

お互い頭に血が上ってる状態…ってことだもんな。

そんなとき、突然相手が「矛を収めて、紳士的な決闘で決めよう」と言い出したところで。

果たして、そのような提案に耳を貸すだろうか?

更に、問題はそれだけではなかった。

「仮に決闘まで漕ぎ着けたとして、公平に決闘のジャッジをするのは誰です?決闘の条件を決め、責任を持ってその条件を履行させるのは誰なんですか?」

「…」

「決闘に勝ったとしても、相手が潔く引き下がる保証は?逆ギレして襲いかかってきて、更に泥沼化する恐れもありますよね?」

「…」

…仰る通りだな。

「紳士協定を馬鹿正直に守った方が馬鹿を見る…そんな状況で、果たして決闘行為に意味があるんでしょうか?…僕には、とても現実的な手段には思えませんね」

故郷で、ずっと血みどろの争いを経験したナジュだからこそ。

言葉の重みが、俺とは段違いだ。

「…うん、それは重々承知してるよ」

と、シルナが答えた。

「それでも、あなたはこの方法を推すんですよね?」

「うん…。ルーデュニア聖王国を戦火に焼きたくはないからね」

俺だってそうだよ。

この国を…学院を…守る為なら、何だってやるよ。

「ナジュ君、君はさっき、決闘の立合い人を誰にするのかって聞いたね」

「はい」

「それは考えてある。…決闘の立合い人、見届人は、世界だよ」

…せ。

…世界?

そりゃまた…大きく出たな。

「ルーデュニア聖王国とアーリヤット皇国が、互いに何を賭けて、何の為に戦うのか…。世界に公表して決闘を行う」

「成程。もし決闘の条件が守られなかった場合、その国は世界中から批判を受ける…ということですね」

「うん、そう」

…言うは易し、って奴だな。

世界中から批判されようと、素知らぬ顔して約束破りそうだもんな、ナツキ様って…。

…でも、世界から「嘘つき国家」のレッテルを貼られるのは、ナツキ様とて嬉しくないはずだ。

何より、ルーデュニア聖王国とアーリヤット皇国、両国の間に入って立合い人を務められる者なんて。

それこそ、全世界全ての人、くらいでなきゃ無理だろう。

世間の目が、俺達を見張っている。

その状況なら、ナツキ様も下手なことは出来ないはず。

まぁ、これはあくまで希望的観測だけどな。

今は、そんな希望にでもすがるしかないだろう。
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