神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「お前達は、決闘なんて甘いって言うんじゃないかと思ってたよ」

「いや?甘いとは思ってるよ?」

思ってんの?

「でも、頭を潰して組織を瓦解させるのは暗殺者の常套手段だから」

「あぁ、そういうこと…」

「何なら、皇王本人が決闘に出てくれれば良いのにね。その人さえ殺せば万事解決なのに」

ナツキ様本人が決闘に、だって?

それはさすがに無理だよ。そうしてくれたら有り難いけどさ。

そうしたら、こちらもフユリ様ご本人を決闘に出さなきゃいけなくなる。

無理無理、絶対無理だって。

「イレース…。お前はどう思う?」

イレースは決闘に賛成か?それとも反対か。

「私にとっては、カブトムシの喧嘩くらいどうでも良いですね」

…身も蓋もない。

そりゃイレースにとっては、明日行う予定のミニテストの方がよっぽど重要事項だろうよ。

でも今、一応ルーデュニア聖王国存亡の危機だから。

少しは真面目に取り合ってくれよ。

「決闘なんてしなくても、いっそあみだくじか、ジャンケンででも決めたらどうです?」

「俺もそう思うけどさ…。ナツキ様はそれじゃ納得してくれないんだよ…」

黒ひげ危機一発とかで決めれば良いんじゃないかなって、俺もそう思うよ?

誰も傷つかなくて済むじゃん。

でも、それじゃ納得してもらえないんだよ。引き下がってくれない。

だから戦争って起こるんだよ。悲しいことにな。

皆物分かりが悪過ぎる。

「それなら、決闘で勝敗を決めたとしても納得しないのでは?」

「…それは…」

「こてんぱんに痛い目を見ないことには懲りませんよ、あの種の人間は」

…そうなの?

「うちのパンダ学院長も同じだから、よく分かります。少々叱ったくらいじゃ言うことを聞かないんです。殴ってシバいて、痛みを持って分からせなければ」

「…ひぇっ…」

イレースに睨まれて、びくっと身体を震わせるシルナであった。

…成程、説得力の塊だな。

確かに、例え決闘で白黒はっきりつけても…納得してくれなさそう。

「でもそれは…一応世界中が見てるんだから、ナツキ様も引き際の悪いようなことはしないと思うけど…」

「ふん、どうだか。決闘の結果を潔く受け入れるかどうかなんて、決闘が終わってみないと分かりません」

…まぁ、否定はしないよ。

こんな決闘無効だ!とか言い出しかねないし…。

「…じゃあ、イレースは…決闘じゃなくて、真っ向からアーリヤット皇国と戦争するべきだって、そう言うのか?」

「そんなつもりはありません。戦争なんか起きたら、また私の授業計画に支障が出るじゃないですか」

あくまでイレースの一番の心配事は、それなのか?

授業計画に支障が出るか否かが重要なの?

そりゃまぁ、重要だけどな。授業計画は。

でも今は国家のピンチなのだから、国の心配もしてくれ。

「決闘云々の交渉をしていれば、少しは時間が稼げるでしょう。その間に別の対策を立てることも出来るはずです」

「あ、そうか…」

あくまでこれは時間稼ぎ。ナツキ様が決闘を検討しているうちに、こちらも対策を立てる。

それも一つの手だな。
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