神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「…あの、学院長先生」

ずっと無言を貫いていたシュニィが、おずおずと片手を上げた。

「どうしたの?シュニィちゃん…」

「仮に…ですよ、仮に、ナツキ皇王様が決闘を受けると言ったとして…」

うん。

「決闘に参加するのは…どなたなんですか?」

…うん。

…えーっと。

「…誰なんだろうな…」

「…考えてなかったんですか?羽久さん…」

「俺は考えてなかった…」

とにかく、目の前の戦争を避けるだけで頭がいっぱいだったよ。

そうだ。それを話し合って決めないと。

決闘決闘って言ってるけど、その決闘に出るのは誰だよ?

めちゃくちゃ責任重大なんだぞ。分かってるか?

ルーデュニア聖王国の命運が、その一人の肩にかかってるんだぞ。

恐ろしいプレッシャーだ。考えただけで身体が竦みそうになる。

多分、誰も望んでその役目を背負いたくはないと思う。

自分の一挙一動、勝ち負けの結果次第で、国の未来が決まるんだぞ。

誰がそんな責任を、一人の身に背負いたいと思う?

とてもじゃないけど、重過ぎて背負いきれない。

勝てれば問題ないが、もし負けたときに…。

…負けたときのこと、考えたくないのは山々だ。

でも、そうは行かないだろう。 

決闘なんだから、片方が勝てば片方は負ける。

負けるどころか…命を落とす危険だってあるのに。

国の命運をかけた戦いに、果たして自分から立候補したい者がいるだろうか?

と、思ったのも束の間。

「僭越ながら…。…覚悟なら、私にも出来ています」

シュニィが、自らそう名乗り出た。

えっ…。

「忌み嫌われていた私を受け入れ、守り、居場所を…家族を与えてくれたこの国に、恩返しがしたいんです。ルーデュニア聖王国を守る為なら、喜んでこの生命を懸けましょう」

「…シュニィ…」

力強いその言葉に、思わず感激してしまいそうになったが。

頼もしい仲間は、シュニィだけではなかった。

「はいはい。僕も立候補しますよ」

なんとも軽いノリで挙手したのは、ナジュだった。

「…ナジュ、お前…」

「僕は死にませんしね、絶対。最悪自爆して対戦相手を戦闘不能にしてやりますよ」

…いや、それお前も戦闘不能になるんじゃね?

その場合どうなるんだ?引き分け…?

「万が一負けても、僕が責任を負いますよ。既に人殺しの汚名を背負っているんだから、今更責めを負うことに躊躇いはありません」

「…」

「敗北者の汚名を着せられるなら、シュニィさんのような善良な方じゃなくて、僕のような人間が相応しい。そうじゃありません?」

…馬鹿。強がり言いやがって。

そういう問題じゃないだろ。
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