神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
誰と誰が対戦するのか、俺達は一切決めることが出来ない。

俺達に出来るのは、十名の決闘出場候補者を決めることだけ。

選んだ十人でミナミノ共和国に赴き、そこで誰と誰が対戦するかについては、全てナツキ様が決める。

不利なんてもんじゃないぞ、このルール。

俺達は、アーリヤット皇国が選ぶ十人の選手について、何も知らない。

どんな武器を使うのかとか、どんな魔法を使うのかとか、何も。

対するアーリヤット皇国には、ヴァルシーナがいる。

俺達が誰を選ぼうと、あの女はある程度のことは知ってる。

俺が時魔法を使えること、シルナが分身魔法を使えること。

ナジュが不死身の読心魔法使いであることや、令月とすぐりが元『アメノミコト』の暗殺者であることも。

聖魔騎士団魔導部隊から選出したとしても、こいつはこの魔法が使えるだろう、程度のことなら…ヴァルシーナも知ってるはず。

だからナツキ様は、ヴァルシーナの助言に従って。

ルーデュニア聖王国の選手に有利な自国の選手を選んで、一方的に有利な試合を押し付けることが出来る。

しかも、三試合とも全部、アーリヤット皇国側が対戦相手を指名すると言っているのだ。

つまり、こちらに選択権なし。

お前とお前、お前とお前、お前とお前が対戦しろって、全部一方的にナツキ様の一存で決める。

開催地や審判の問題より、こっちの方が遥かに大問題だよ。

「対戦相手はくじ引きで決めるとか…。せめて、一回戦は向こうが決めるなら、二回戦はこっちが…で決めさせてくれれば良かったのに」

「…そんな温情はくれてやらない、ってことだな」

ただでさえ不利な状況が、段々絶望に変わってきた。

チョコレートを食べて解決するレベルじゃなくなってきたぞ。

それでも、ちらりとシルナの方を見ると。

やっぱり平然としていて、全く狼狽えていないように見える。

…もう、お前のその底無しの自信に賭けるからな。

そうするより他に方法がないなら、俺はシルナを信じるよ。

「こんなの不平等過ぎるよ。ナツキ様に抗議して、対戦相手の決め方を変えるように…」

「聞く耳を持つと思いますか?最悪、それなら決闘は取りやめると言い出しますよ」

「っ…」

天音は必死に抗弁しようとしたが、イレースにばっさりと切り捨てられていた。

…うん、俺もそう思う。

抗議したところで、聞き入れられるはずがない。

「異論を唱えても、不平等を訴えても、状況は何も好転しません。むしろ、貴重な一分一秒を無駄にするだけです。それより、早いところ代表者十人を決めるのが先でしょう」

…よく言った、イレース。

不平不満なら、後でいくらでも言おう。

その前に、この不利な状況で、少しでも勝ち目を見出す為の選出を考える。

その方が、余程有意義というものだ。
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