神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
その後、パトロールの為に合流した『八千代』にも、俺は事情を説明した。

かくかくしかじかで、ツキナが猫を拾ってきたから、猫の餌を確保しないといけないと。

『八千代』にも協力して欲しいということも。
 
『八千代』は特に驚くことも否定することもなく、こくりと頷いた。

「僕は何すれば良い?」

「そーだな。じゃあ、『八千代』は学院の食堂に忍び込んで、牛乳を温めて持ってきてよ」

「分かった」

時刻は、既に消灯時間を過ぎている。

校舎には鍵がかけられているし、学院長の分身がうようよと、校舎の周りを彷徨いている。

しかし、それが何だと言うんだ?

夜の校舎に忍び込むのは、俺達のいつものジョブだよ。

どうせ今夜もパトロールする予定だったんだし、丁度良いや。

「『八千歳』はどうするの?」

そーだな。俺は…。

「学院の外に出て、キャットフードを売ってる店を探してくるよ」

この時間まで開いてるお店、あるかな?

「今回の作戦は、完全隠密任務。分かってると思うけど、決して誰にも姿を見られちゃいけない」

と、『八千代』が言った。

そーだね。

万が一俺達のどちらかでも、姿を見咎められてしまったら。

ツキナが猫を拾ってきたことが、イレース先生の耳に入る可能性がある。

それじゃあ隠密行動の意味がないよね。

大丈夫だとツキナと約束したからには、絶対にミスは許されない。

キャットフードを買いに行く道中も、勿論お店の中でも、決して誰にも姿を見られてはいけない。

一般人なら、まず無理な任務だろうね。

…でも。

俺は元『アメノミコト』、『終日組』の暗殺者だよ?

誰にも見られないよう任務をやり遂げるなんて、お安い御用だ。

「『八千歳』、大丈夫?」

「誰に向かって言ってんのさ。俺がしくじると思ってる?」

「全く思ってない」

あっけらかんとして言っちゃってさぁ。

じゃ、わざわざ聞かなくていーよ。

「行ってくるよ。牛乳の方宜しく」

「うん、任せて」

いつもの仕事着、黒装束に身を包み。

俺は学院長分身の目を掻い潜り、猫の餌を求めて学院の外に抜け出した。
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