神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
何とか自制し、掴みかかるのを堪えた俺を。

ナツキ様は相変わらず、小馬鹿にしたような顔で見ていた。

この野郎…。今に見てろよ、吠え面をかかせてやる。

「…長話は無用だよ。私達は決闘をしに来たんだから」

シルナが、ナツキ様に向かってそう言った。

ナツキ様の後ろには、アーリヤット皇国側が用意した決闘の代表団十人が揃っていた。

そうそうたる顔ぶれである。

いかにも強そうに見えるのは、試験会場で周囲の人間が皆自分より頭良さそうに見える、あの現象と同じだな。

心配しなくても、向こうから見たら、俺達も充分強そうなメンバーに見えてるはずだ。

そう信じよう。

シルナが信じると言って託した仲間達を、俺も信じよう。

「決闘を始める前に、お互いこの決闘に賭けるものを確認しよう」

「そうだな」

シルナの言葉に頷き、ナツキ様は腰を上げた。

そして、決闘の条件を見届ける為に用意した、審判役を務めるミナミノ共和国の軍属魔導師を一人、立会人として呼んだ。

立会人となったミナミノ共和国の魔導師は、まだ若そうな女性で、険しい顔に冷徹な瞳の持ち主だった。

一分の隙もないし、容赦もしてくれなさそうな…。

何処か、イレースを思わせる気風である。

「私がこの度の決闘の立会を務める、マミナ・ミニアルと申します」

審判の軍属魔導師は、自らをそう名乗った。
 
マミナか。宜しく。

くれぐれも、公正なジャッジを頼むぞ。

「それでは、両国、決闘の条件を確認致します。まずはアーリヤット皇国皇王、ナツキ陛下」

「あぁ」

「あなたはこの決闘に、何を賭けますか?」

ナツキ様が賭けるものって言ったら、それは…。

「俺がこの決闘に勝利した暁には、ルーデュニア聖王国も世界魔導師保護条約に批准してもらう。その他、親魔導師国家を説得して、同条約に批准するよう積極的に呼びかけを行ってもらう」

そしてゆくゆくは、世界中全ての国で、ナツキ様の考えた魔導師保護条約を適応し。

アーリヤット皇国が世界の宗主国となり、魔導師を好き勝手に道具として貸し借りする世の中にする、と。

畜生。やりたい放題じゃないか。

つーか、「外交大使」2名を返還しろ、とあれだけ要求してた癖に、今は言わないのか。

やっぱりルディシアとマシュリを返せと言ってきたのは、単なる建前だったんだな。

二人を人質扱いして、ルーデュニア聖王国を悪者にする為の建前。

ルディシアとマシュリがこうして、ナツキ様の前に出てきて公然と敵対している今。

もう、二人を返せと要求したりはしなかった。

ハナから帰ってきて欲しいなんて、欠片も思ってなかったんだろう。

つくづく、自分勝手な人だ。
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