神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
更に、ナツキ様の図々しい要求はこれだけではない。

「それから、一連の騒動のせいでかかった諸費用と、国民達が受けた精神的苦痛に対する慰謝料と賠償金を支払ってもらう」

そう言って提示した、賠償金の金額は。

それこそ、目玉が飛び出るほど莫大な額だった。

シルナのチョコ何箱分だ?これ。

精神的苦痛って。どの口で言ってんの?全部自分が始めたことじゃないか。

その癖、自分達が勝ったら金を寄越せ、って。

強請りか、カツアゲみたいなものじゃないか。

しかし、この多額の賠償金もまた、前座でしかない。

今回の深慮遠謀な騒ぎを起こしたナツキ様の、一番の目的は。

「そして、ルーデュニア聖王国はアーリヤット皇国に対し、正式に謝罪すること。ひいては、ルーデュニア聖王国女王は一連の騒動の責任を取って辞任してもらう」

「…」

「次の王が決まるまで、ルーデュニア聖王国はアーリヤット皇国の統治領として、アーリヤット皇国が治めることとする」

…この男、自分が何を言ってるのか理解しているのか。

フユリ様の辞任。

彼女を女王の座から引きずり降ろして、自分が代わりに、ルーデュニア聖王国を支配しようとしている。

統治領ってことは、実質植民地支配じゃないか。

ナツキ様はずっと、ルーデュニア聖王国の国王になりたがっていた。

しかし、フユリ様にその座を奪われてしまった。

それでもナツキ様は諦めず、ずっとルーデュニア聖王国に…フユリ様に復讐する機会を窺っていた。

そして今、ようやくその時がやって来たのだ。

フユリ様に全ての責任を押し付け、女王の座から引きずり下ろし。
 
アーリヤット皇国のみならず、ナツキ様はルーデュニア聖王国の国王に成り変わる。

ルーデュニア聖王国を、アーリヤット皇国の植民地にすることで。

彼は、かつての自分の悲願を叶えようとしているのだ。

こんな…残酷な形で。

ルーデュニア聖王国の女王って…フユリ様って…自分の妹のことだろうに。

いくらなんでも、それはやり過ぎだ。

しかし、ナツキ様は本気だった。

本気で、フユリ様を女王の座から引きずり下ろし、代わりに自分が玉座に座ろうとしている。

アーリヤット・ルーデュニア聖王国の、新しい王として。

これが、この人の復讐か。

その為に…ヴァルシーナと手を組んで、マシュリやルディシアを利用して…。

…もしもこの復讐が成功したら、あんたは大した器だよ。

その底知れない執念だけは、俺も認めてやる。

…ただし、成功したらの話だけどな。

成功なんてしない。必ず失敗する。

何故かって?

俺達が、ナツキ様の復讐を阻止するからだ。

絶対に、彼の好きにはさせない。

フユリ様が愛し、守り、俺達が愛し、守ってきたルーデュニア聖王国を。

ナツキ様の勝手な復讐の道具にはさせない。決して。
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