神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「…それでは、ルーデュニア聖王国代表、シルナ・エインリー魔導師」

立会人のマミナ・ミニアルは、今度はシルナの方を向いた。

「ルーデュニア聖王国は、この決闘に何を賭けますか?」

…それは。

…折角だから、こっちも負けずに吹っ掛けてやろうぜ。

どうしてやろうか。

まず、アーリヤット皇国は二度とルーデュニア聖王国に手出ししない、と約束させて。

ついでに、ナツキ様がフユリ様に要求したように、こっちも謝罪を要求して。

同じだけの額の賠償金を請求して。

おまけに、ナツキ様にはアーリヤット皇国皇王の座を降りてもらう。

ナツキ様もルーデュニア聖王国に、これだけのことを要求してるんだから。

同じようにこっちも、アーリヤット皇国に同じものを要求する権利がする。

それでこそ、釣り合いが取れるというものだ。

…しかし。

「…私が要求するのは」

シルナは、重々しく口を開いた。

「ルーデュニア聖王国が勝ったら、フユリ様に会ってもらう」

「…は?」

これには、マミナ・ミニアルも、ナツキ様も怪訝な顔をしていた。

「フユリ様に会って、話をしてもらう。今度は逃げないで、ちゃんと会って」

今回の騒動が起きてからというもの、ずっと。

フユリ様は、ナツキ様と直接会って話したいと要求し続けていた。

しかしナツキ様は、それらの要求に全く応えなかった。

彼にしてみれば、フユリ様と直談判して和解しようなんて気は全くないのだろう。

…だけど、今度はもう逃さない。

「フユリ様に会って、両国の平和の為に話し合ってもらう。これが、ルーデュニア聖王国が決闘に賭けるもの」

フユリ様と話し合って決めたことだ。

アーリヤット皇国に、ナツキ様に何を要求しようかって。

色々と考えて、フユリ様から出てきたのは、これだけだった。

ナツキ様と、会って話したい、と。

賠償金でも謝罪でもない。植民地とか、国王の座なんて要らない。

ただ平和の為に話がしたい。フユリ様が望むのはそれだけだ。

逃げ回らずに、ちゃんと会って話して欲しい。

それ以外に望むことなんて何もない。

これがフユリ様の御意志であり、シルナもそれに賛同した。

…全く、何とも甘い条件だ。

「…」

これには、ナツキ様も言葉を失っていた。

何だよ。フユリ様も、あんたに負けず劣らず、業突く張りの要求をすると思ってたのか?

フユリ様は、そんなことはちっとも考えていないよ。

あの方はただ、平和を願っているだけだ。

ルーデュニア聖王国は勿論、アーリヤット皇国に対しても。
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