神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
しかし、本当に緊張するべきなのは。

アーリヤット皇国の代表じゃなくて、そのアーリヤット皇国の代表が、俺達の中の誰を対戦相手に選ぶか、だな。

こっちは一切選択権がないのだから、要求されたら従うしかない。

もしかしたら自分が選ばれるかもしれない、と緊張したが、それ以上に。

仲間にこの重荷を背負わされるくらいなら、いっそ自分が選ばれた方がマシだ、という気持ちもあって。

それだけに、全く選択権のない自分の身がもどかしい。

…すると。

「…一回戦はお前が行け」

ナツキ様は、自分の代表団にいる一人の男に向かって言った。

「へぇ、そう来なくっちゃあな」

俺のように緊張するどころか、指名された男は、不敵にそう笑ってみせた。

その男の姿を見て、俺は思わず息を呑んだ。

くすんだ色の肌に、2メートルをゆうに越える身長。

何より特徴的なのは、シルナの5倍くらいあるんじゃないのかと思うほど鍛えられた、全身の筋肉であった。

すげぇ。漫画に出てきそうな大男。

おまけに、俺だったらとても持ち上げられそうにない、巨大で重そうな大斧を提げていた。

「…まんまって感じだな…」

「えぇ…。RPGゲームだったら、序盤の難関ボスやってそうな…」

単純に力と防御が強くて、力押しだと全く立たないパターンな。

味方は全員石の剣なのに、そいつだけ鋼の剣装備してそう。

いや、剣じゃなくて斧なんだけど…。

こいつ、絶対ルディシアが今朝言ってたバーサーカーだろ。

もう見たまんまだよ。

本当に代表団に選ばれているとは。しかもまさか、一回戦の対戦相手に指名されるなんて。

今朝ミーティングしておいて、本当に良かった。

しかし、覚悟はしていたけど…実際そのバーサーカーを目にしてみると、本当に勝ち目があるのか不安になってきた。

こういう超パワー系アタッカーは、アトラスで慣れているつもりだったが…。

…アトラスと戦って勝て、と言われてるようなもんだろ?

無理。絶対無理。

何だろう。やっぱり勝てる気がしなくなってきた。

しかし、現実は容赦がない。

「それでは、次にルーデュニア聖王国の代表者をお選びください」

俺達十人のうち誰かが、この大男、バーサーカーと戦うことになる。

それは避けられない運命だ。

しかも、誰が相手をするかを選ぶ権利は、こちらにはない。

一体誰が、誰ならこのバーサーカーを打ち倒せる…?

「…対戦相手はお前だ」

ナツキ様は、俺達の仲間の一人を指差した。

彼の指差した先にいたのは。

「…私か…」

指名されたのは、ベリクリーデ・イシュテアその人であった。
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