神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…嘘だろ?

寄りにもよって、ベリクリーデだなんて。

十人の代表団の中で、ベリクリーデは唯一の女性。

魔力の量ならトップクラスのベリクリーデだが、単純な腕っぷしの強さなら、恐らくシルナとどっこいどっこいだ。

こんな大男を相手に、非力な女性を選ぶなんて。

ナツキ様には、人の心というものがないのか?

それで勝って満足なのかよ。

「おいおい、大将。そりゃないぜ」

意外なことに、巨斧を持ったバーサーカー自身が、ナツキ様の決定に異論を唱えた。

「そんな弱っちい女とやれってのか?何の為にこんな島くんだりまで来たんだか。強い奴と戦わせてくれるって言うから来たんだぜ?」

「黙って従え。一回戦を落とす訳にはいかない。確実に勝てる試合だ」

「…ちっ…」

ナツキ様に睨まれ、バーサーカーの男は不満そうに舌打ちしていた。

舌打ちで納得するんじゃねぇ。もっと反対してくれよ。

本気で、ベリクリーデと…。

しかし。

「確実に勝てる試合…か」

指名されたベリクリーデは、俺と違って狼狽えるような素振りは見せなかった。

「舐められたものだね。…戦う前から、勝てる気でいるなんて。頭の中まで筋肉が詰まってるのかな」

「…あぁ?」

ベリクリーデに挑発されて、バーサーカーはジロリとベリクリーデを睨んだ。

お…おい、ベリクリーデ…?

そんな…相手を挑発するようなことを言う奴だっけ?

何だか…人が変わったような…。

「…おい女、言葉には気をつけろよ?」

バーサーカーの声が、体感10℃は低くなった。

こ、これ以上挑発するのは不味いって。

しかし、ベリクリーデには全く恐れる様子はなく。

「そっちこそ。あんまり偉そうなこと言わない方が良いよ。負けたとき恥をかくから」

「…」

ベリクリーデをじっと見つめたバーサーカーは、挑発されて怒り狂う…かと思いきや。

「…は、ははは。そう来なくちゃ。そう来なくちゃあな!」

タガが外れたかのように、大笑いし始めた。

「面白い女だ。よし、お前がぐちゃぐちゃに潰れて、泣いて命乞いする様が見たくなった」

「悪趣味だね」

「生まれてきたことを後悔するくらい、めちゃくちゃにいたぶってやるよ。女」

…やる気満々にしちゃった。

どうするんだよ。対戦相手をチェンジしてもらうどころじゃないぞ。

決闘の勝ち負けどころか、ベリクリーデの命まで危ぶまれる状況になってきた。
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