神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
本気でやるのか?
 
この、いかにも屈強そうな…。

シルナだったら、片足で踏んづけられただけでぺちゃんこになりそうな、筋骨隆々の戦士と。

それに、あいつが持ってるあの巨大な斧。

アトラス愛用の大剣もかくやという、凄まじく巨大で重そうな武器だ。

あんなもの、ほんのちょっとでも掠っただけで、腕が潰れるぞ。

ましてや、身体に直撃なんて食らってみろ。

死ぬ。絶対死ぬ。即死だ。

おまけに、いかにもバーサーカー然とした、戦い好きな戦闘狂タイプの性格と来た。

女性相手だからって、情け容赦をしてくれそうな雰囲気は全くない。

そもそも、ナツキ様がわざわざ指名して戦わせている以上、ハナから情け容赦なんて期待出来ない。

どころか、いたぶって遊んでやると宣言しているくらいだ。

戦う前から、危険な匂いしかしない。

それでも、俺達には拒否する権利も、チェンジの要求も出来ないのだ。

…こうなったら、受けて立つ他にどうしようもなかった。

ほら、その、割とベリクリーデも力押しで戦うタイプだし。

ベリクリーデの持ち味と言えば、聖魔騎士団魔導部隊の中でもトップクラスの魔力の量。

俺より魔力多いし、何ならシルナより豊富な魔力量を誇っている。

目には目を、歯には歯を、力には力を。

ベリクリーデの豊富な魔力で、あの巨大な斧を粉砕する…みたいな奇跡が起きるかもしれないじゃないか。

起きてくれなかったら困るんだが。

…しかし。

「…お前、ベリーシュか」

ジュリスが、ポツリとベリクリーデに向かって言った。

…ベリーシュ?誰?

そういやさっきから、ベリクリーデの様子がいつもと違うような…?

「うん。私じゃない方が良かったかな」

「いや…。お前の方が冷静に戦えるから、むしろ好都合だ」

と、ジュリスが答えた。

よく分からないけれど、少しでも決闘に有利な状態になっているのなら、それに越したことはない。

「良いか、焦るなよ。逃げ回っても良いから、時間を稼いで隙を伺え。一瞬たりとも気を抜くな」

「うん、分かってる」

ジュリスがベリクリーデに、最後のアドバイスを伝えた。

あの筋骨隆々バーサーカーを前に、落ち着けと言われても無理な話だがな。

「それから…お前が戦うのなら、これを持っていけ」

そう言って、ジュリスはベリクリーデに両手剣を与えた。

あの剣…前にも見たことがあるな。
< 510 / 699 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop