神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
――――――…ちょっと、想定外だったかな。

ここぞという決闘の瞬間に、ベリクリーデじゃなくて、私の人格が出てきてしまったこと。

私じゃなくてベリクリーデだったら、今頃この決闘は終わっていただろうか?

あの子ならどんな風に戦っただろう。

今のところベリクリーデは、この身体の深い場所で眠っている。

外がどうなっているのか、見えているのかいないのか…起きてくる様子はない。

まぁ、あの子が起きてきたからって、事態が好転する保証は何処にもないけど。

むしろ、「入れ替わる」瞬間に隙が出来るから、起きてこられちゃ困る。

…とはいえ、今のこの状況は、ちょっと困ったかも。

こんな大振りの攻撃ばかり連発してるんだから、いつか隙を見せると思ったんだけど…。

さすが、決闘の代表に選ばれるだけあるね。

アーリヤット皇王子飼いの…『HOME』の戦士だっけ?

その名前は伊達じゃないらしい。

今のところ、全然隙を見せる様子はない。

むしろ、私の方が先に隙を見せてしまいそう。

逃げ続けるだけなのに、さすがにちょっと疲れてきちゃった。

バニシンの挑発に乗るのは、気に食わないけど。

そろそろ、逃げ回る以外の作戦も考えた方が良さそう。

これ以上ジリ貧になる前に。

「ちょっとは、こっちから打って出た方が良いかな」

「へへぇ…?やっとやる気になったか?」

結構前からやる気だけどね。口に出さないだけで。

私は、両手に星辰剣を構え、魔力を込めた。

…この状況に至っても、やっぱりベリクリーデが起きてくる気配はないね。

同じ身体を共有している以上、見えてない…訳ではないはずなんだけど。

この程度、自分が出てくる必要はないと思っているのか…。

…それとも、私が何とかしてくれるって、信じてくれてるのかな。

もしそうなら、その期待には応えないとね。

「…星の力を纏え、星辰剣」

ジュリスが私に託してくれた星辰剣を、今こそ使う時。

星が出ていない為、その威力はかなり制限されている。

でも、その分私が、自分の魔力を込める。

体力はバニシンに遥かに劣っているが、魔力の量なら絶対負けてない。

自分の強みで勝負しろって、ジュリスが言ってた。

だから、そうする。

ベリクリーデの…この身体の豊富な魔力を活かす戦いをする。

「ほぉ…?面白い武器じゃないか。何だ、それ?」

バニシンは、輝いて光を増していく星辰剣に興味を示していた。

「それがお前の武器か。飾りかと思ったが、ちゃんと使えるんじゃないか」

安っぽい挑発だね。

私が言えた義理じゃないけど。

「よぉし、良いぞ。かかってこい」

バニシンは喜々として両手を広げ、堂々と私に向かい合った。

私が散々そうしたように、攻撃を避けるつもりはないらしかった。

…どんな攻撃でも受けて立つ、ってことか。
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