神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
自分は散々攻撃を避けておいて、こう言うのもなんだけど。

私はバニシンに攻撃を避けて欲しくなかったから、丁度良い。

「俺は逃げも隠れもしない。さぁ、かかってこいよ」

手をパンと打って、攻撃を催促する始末。

大した自信だよ。

ただ身体が大きいだけじゃないんだね。

「っ、馬鹿が…!何を遊んでる!」

攻撃を避けようともせず、馬鹿正直に受け止めようとするバニシンに怒ったらしく。

観客席から、痺れを切らしたアーリヤット皇王が叫んだ。

しかし。

「ちっ、うるせぇ大将だ」

幸いなことに、バニシンは『HOME』に所属していても、アーリヤット皇王への忠誠心は厚くないらしい。

舌打ちをして、ナツキ様を一瞥した。

「戦わない奴に何が分かるって言うんだ。なぁ?おい。この愉悦、興奮、緊張感…!最高に痺れる瞬間だよなぁ?」

「…」

「お前もそう思うだろ?楽しくて堪らないよな。なぁ!?」

「…変態」

悪いけど、私にそんな趣味はない。

君の特殊性癖を、私に押し付けるのはやめて欲しいね。

「何だよ、ツレない奴だなぁ…」

そう言いながら、バニシンはこの上ない愉悦の表情を浮かべていた。

本当に変態だよ、君は。

付き合ってられないね。

「さぁ、来いよ…。俺を否定するつもりなら、俺を殺すつもりで来いよ!!」

「…」

殺すつもりなどない。

いたぶる趣味も、痛めつける趣味もない。

ただ、バニシンの意識を奪えば良い。

…その「手加減」が、無意識に私の魔力を制限していた。

「…行くよ、星辰剣」

充分両手に魔力を込め、私はバニシンに向かって飛んだ。

星辰剣は、左右で長さが異なる剣。

まずは、左手に持った長剣を。

「…うぉっ…!?」

どうやら、星辰剣の威力を甘く見ていたらしく。

攻撃を受け止めるなり、バニシンの両目に驚愕が浮かんだ。

今更驚いても、今更焦っても、もう遅いよ。

恨むなら、ナツキ様の忠告を無視して、馬鹿正直に私の攻撃を受けようとした、自分を恨んでね。

左手の長剣で充分怯んだところに、とどめの為に右手の短剣をバニシンの巨躯に叩き込もうとした。

…しかし。

「う…うぉぉぉぉあぁぁ!!」

「…っ!?」

あろうことか、バニシンは私の右手の短剣の刀身を、万力の握力で握り締めた。
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