神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…「これ亅を私に教えてくれたのは、任務を共にすることが多いジュリスだった。

今から数ヶ月ほど前のある日、王都セレーナの銀行に強盗が出て、銀行の職員を人質に立てこもるという事件が起きた。

警察の必死の説得にも耳を貸さず、包丁を持って脅しの言葉を喚き散らす強盗犯に、お手上げ状態の警察は。

聖魔騎士団に応援を求めてきて、そこでそのとき手の空いていた私とジュリスが、立てこもり強盗犯の相手をすることになった。

…とは言っても、あのとき最初に出ていたのは、私じゃなくてベリクリーデだった。





「ったく…。迷惑な話だよ。銀行強盗とは…」

ジュリスは、現場の銀行に向かいながら溜め息をついていた。

「おまえに、職員を人質にして立てこもってるなんて」

「ねぇ、ジュリス」

「何だよ?」

「立てこもりって何?カタツムリのお友達?」

ベリクリーデは、立てこもりを知らなかったらしい。

そのとき私の…ベリーシュの人格は目を覚ましていたけど、身体の主導権はベリクリーデに渡していた。

ベリクリーデの心の中に引っ込んで、彼女と同じものを見ていた。

カタツムリか…。カタツムリのお友達を捕まえに行くなら、もっと楽しい任務だったろうにね。

「ちげーよ。銀行の中に閉じこもって、職員を人質にして居座ってるんだ」

ジュリスが説明してくれた。

人質を取ってるっていうのが、タチ悪いよね。

人質さえいなければ、多少強引でも、無理矢理突入することも出来ただろうに。

「そうなんだ…。動かざること岩の如しって奴だね」

「山、な。山」

「説得されても脅されても、自分の意志を貫いて絶対動かないなんて…。立派な人だね」

「前向きな解釈をするな」

一応相手は犯罪者だからね。確かに意志の強さは立派なものだと思うけど。

褒めたら駄目だから。

「でも、人質がいるんだよね?」

「あぁ、いる。銀行の職員が20人ほど…。しかも、犯人は包丁を持ってるらしい」

包丁か…。

武器にしては少々貧弱だけど、人を傷つけるには充分だ。

人質に傷をつけさせず、犯人も人質も私達も、誰一人怪我することなく事を収めたい。

「どうやってその人、止めようか?窓割って入る?」

「いや、下手に刺激するのは良くない。ここは…。…やっぱり、正面突破だな」

下手に刺激するのは良くない、と言いながら。

出てきた作戦が正面突破なのだから、ジュリスもなかなか大胆なことを考えたものだと思った。
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