神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「正面突破って?…たのもーっ!ってするの?」

「…別に、道場破りじゃないからな?」

ベリクリーデの発想って、いつも自由で面白いよね。

嫌味じゃなくて、毎回楽しませてもらってるよ。

「人質じゃなくて、こちらに注目を集める必要がある。万が一でも、人質を傷つけられたら堪らないからな」

「どうやるの?」

「そうだな…。ベリクリーデ、お前は俺の後ろに隠れててくれ。俺が犯人を説得する。お前は…」

「うん、分かった」

ベリクリーデは、ジュリスの背中にぺたっ、とくっついていた。

隠れてくれって、多分そういう意味じゃないと思うけど。

案の定、ジュリスは。

「違う、馬鹿。そうじゃない」

「え?」

「俺の後ろにいてくれれば良いんだよ。くっつかなくても。で、もし犯人が変な気を起こして人質を傷つけようとしたら…」

「たのもーってすれば良いの?」

「…そのときは、力ずくでも良いから犯人を止めてくれ、って言いたかったんだよ」

とりあえず、ちょっと道場破りから離れようか。

一応人命が懸かってるからね。真面目にやろう。

「分かった。お星様にしてあげるよ」

「いや、殺さなくて良いから。あのな、お前は毎回、やることが大雑把過ぎて…」

「たのもー」

「こら。一人で勝手に入ろうとするな!」

強盗犯の立てこもる場所だろうと、ベリクリーデは全く臆することなく。

自分の家の玄関にでも入るように、気楽な様子で突入。

「…っ!?誰だっ!?」

これには、中にいた強盗犯もびっくり。

包丁を構えて、警戒心丸出しでこちらを睨んでいた。

言わんこっちゃない。

刺激しちゃ駄目って言われてたのに、早速刺激しまくりだよ。

「あー…。とりあえず落ち着いてくれ。俺はただ、あんたと話をしに来たんだよ」

これ以上犯人を刺激しないよう、ジュリスが両手を上げてそう言った。

「話だと…?」

「なぁ、あんた。何があったのか知らないが、こんなやり方はないだろ?人様に迷惑かけるのはやめようぜ」

ジュリスは、犯人の説得を始めた。

よくある、「こんなことをしても無駄だ」とか、「親御さんが泣いてるぞ」とかは言わず。

「何か困ってることがあるなら、相談に乗るからよ。あんたはまだ殺人はやってない。取り返しがつくんだよ、今なら。取り返しがつかなくなる前に、もうちょっと冷静になって考えようぜ」

あくまで、強盗犯の心に訴えかける言葉を選んでいるようだった。

ベリクリーデは気づいてないと思うけど、よく見たら。

強盗犯の、包丁を持つ手。

がくがくと震えていて、立てこもりなんて大胆な犯罪をしながら、心の中では酷く怯えていることが伺えた。

ジュリスもそれに気づいて、敢えて宥めるような口調で説得しているんだと分かった。
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