神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
天然なベリクリーデに説得されて、強盗犯は明らかに動揺していた。

包丁を持つ手が、ますます大きく震えている。

意外なことに、ジュリスの言葉よりも。

素朴で裏表のないベリクリーデの言葉の方が、強盗犯の心に刺さってそう。

「う…うぅ…」

効いてる。ベリクリーデの説得。

あとひと押し…のところだったのに。
 
強盗犯は、ジュリスとベリクリーデの格好を見て、はたと気づいた。

「…そ、そんなこと言うお前らは、聖魔騎士団のエリートなんじゃないか」

…あっ…。

今は、それに気づかないで欲しかったな。

「…良い御身分だよな…。上から人を見下ろして、説教して、それで楽しいのかよ?」

かなり卑屈になってるみたいだ。

これは良くない流れ。また逆ギレされそうな予感。

しかも、更に悪いことに。

「?楽しい…?全然楽しくないよ、強盗犯の説得なんて」

「ちょ、ばっ…!お前っ…」

これには、ジュリスも慌ててベリクリーデの口を塞いでいた。

…もう遅いけど。

ベリクリーデって天然で、思ったことを割と素直に言っちゃうから。

場合によってはそれがプラスに働くんだけど、大抵の場合はマイナスに働くことの方が多い。

口は災いの元とは、よく言ったものだ。

そして、案の定。

「そ、そうだろうよ。そうだろうよ!やっぱり、お前達に僕の気持ちなんか、分かってたまるもんか!」

あぁ。もう少しで説得出来そうだったのに。

全部パーだよ。これからどうしよう。

それどころか、頭に血が上った強盗犯は。

震えていたはずの両手で、包丁を強く握り直した。

…これは、不味いかも。

「…ちっ…」

同じく危機を察知したジュリスが、臨戦態勢に入った。

しかし、そのときジュリスは、いつものように杖を握らなかった。

何故か彼は、見慣れない刀を構えた。

しかも、刀を鞘から抜くことなく、柄を握ったまま中腰で制止した。

…その構えは?

「な、何だよ、その格好…!?」

「…」

「そ…そっちから来ないなら、こっちからやってやるよ!」

強盗犯の問いには答えず、ジュリスは微動だにしなかった。

それどころか、包丁を振りかぶった強盗犯が迫ってきても、ジュリスは全く動かない。

「死ねっ!聖魔騎士団の犬!」

包丁を振りかぶった強盗犯が、叫びながらジュリスの間合いに入ったその時。

目にも留まらぬ速度で、ジュリスが刀を抜いた。

ガキンッ!と、金属が割れるような音がした。
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