神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…気がつくと、ジュリスは再び中腰で、刀を鞘に収めていた。

私も、強盗犯も、何が起きたのか分からなかった。

ジュリス、何でそこにいるの…?さっきまで私の前にいたはずなのに。

いつの間に、強盗犯の背後に移動して…。

それに、さっきの…金属のぶつかる音は一体。

「…無月院流抜刀術…三式」

ジュリスは、小さくそう呟いた。

抜刀…術?

「…散華(さんげ)」

ジュリスが、カチンと音を立てて刀を鞘に収めた。

その瞬間。

強盗犯の持っていた包丁が、バラバラの金属の欠片になって、床に散らばった。

「えっ…えっ…!?」

強盗犯は目を真ん丸にして、自分の手元で細切れにされた包丁の破片を見下ろしていた。

私も負けないくらい、目が点になっていた。

何、今の…凄い。

「…さぁ、そろそろ観念してくれよな」

構えの姿勢を解いたジュリスが、強盗犯の後ろに回って両手を掴んだ。

驚いて固まっていた強盗犯は、抵抗するのも忘れていたようだ。

ジュリスに両手を掴まれて、初めてはっとして、それから改めて暴れようとしたが…。

…武器も奪われ、ジュリスに両手を掴まれていては、暴れようにも暴れられないよね。

「離せ、離せっ…!」

「はいはい、大人しくしてな。…あんたの境遇には同情するが、それは他人を傷付けて良い理由にはならないんだよ」

ごもっとも。

ぐうの音も出ないね。

「ベリクリーデの言う通り、あんたは勇気も胆力もある努力家だ。卑屈になって犯罪に走る前に、その長所を活かせよ」

「…」

その言葉がとどめになった。

強盗犯は抵抗をやめ、がくりと項垂れた。

同時に、外で待機していた警察の皆さんが突入してきた。

ジュリスが強盗犯を捕らえたタイミングを、ずっと見計らっていたのだろう。

「乱暴に扱うなよ」

「は、はい」

突入してきた警察に、強盗犯の身柄を引き渡し。

これにて、聖魔騎士団魔導部隊大隊長である私達の任務は終了したのだった。
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