神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「成程、分かった」

多分分かってないと思うけど、ベリクリーデは素直にこくりと頷いていた。

「本当に分かってるか?」

「うん。とにかく強いんでしょ?」

「…分かってねぇじゃん」

ジュリスが使う技は全部強い、って思ってそう。

間違ってはいないけど。
 
「強いし格好良いから、いつも使ったら良いのに」

「いや、それは無理だ」

「?どうして?」

「あんまり乱用してると、太刀筋を読まれるだろ?」

「…たちすじ?」

「えーと…。刀身の軌道って言うか…。…無月院流の抜刀術は、いくつか型があって、型によって刀を振るタイミングとか速度とか起動や角度、全てが厳密に決まってるんだ」

ジュリスが見せてくれたのは、確か三式だっけ。
 
そう言ってたよね。

ということは、一式と二式もあるんだろう。

是非見てみたいね。

「あの抜刀術は、所謂『初見殺し』なんだよ。見ての通り刀を振る速度は半端じゃないから、素人相手ならまず読めない」

目で追えない速度だったよね。

素人じゃなくても、玄人でも、初見で太刀筋を読むのは無理だと思うよ。

「だけど、二度三度と同じ型を繰り返して、太刀筋を読まれたら、対処するのはそう難しくない」

そうだね。

武道の型式として、完成された型を崩すことは出来ない。つまり、決まった動きしか出来ないってこと。

一度その型式を読まれてしまったら、いくら刀を振る速度が速くても、太刀筋が分かれば、大して怖くない。

確かに、それなら一長一短だね。

みだりに乱発して良いものでもない。

初見殺しなのだから、見慣れて初見じゃなくなったら意味がない。

「それに、最も難しいのは無限院流抜刀術で一番特徴的な…『待ち』の構えだな」

「…街?」

「『待ち』な。待つ、待機することだよ」

待ちの構え…。

それが、ジュリスの使う無月院流抜刀術の特徴?

「無月院流抜刀術は、こちらから仕掛けないって言ったろ?」

「うん」

「あれはな、早い話、敵が自分の間合いに入ってきてくれないと、抜刀術を発動出来ないんだ」

…って言うと…?

「厳密に、型によって間合いが決まってるんだ。それより少しでも遠かったり近過ぎたりしたら、刀を抜いても、充分な威力を発揮出来ない」

…ふむ、そうなんだ。

凄く厳密に決まってるんだね。

敵が自分の間合いに入るまで「待つ」…。故に、「待ち」の構え。

それは辛いね。

どんなにもどかしくても、敵が自分の間合いに入るまでは、決して動けない。

敵が動いてくれるのを待って待って、間合いに入ったら…刀を抜く。

簡単なように見えて、実は凄く難しいんだ。
< 528 / 699 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop