神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…それはともかくとして。

ジュリスのさっきの話を聞いて、私もジュリスに直接、質問してみたくなった。

無月院流抜刀術…。とても興味がある。

格好良いからってだけじゃなくて、もう少し、掘り下げて聞いてみたい。

そう思った私は、ベリクリーデと「入れ替わって」表に出ることにした。

ごめんね、ベリクリーデ。黙って聞いてるつもりだったんだけど…ちょっと代わってね。

「…ねぇ、ジュリス」

「ん?なん…。…お前、ベリーシュか」

「うん」

一瞥しただけで私だって分かるんだから、ジュリスは凄いね。

「よく私だって分かるね」

今のところ、私の存在はジュリスしか知らない。

誰も私という人格が発生したことに、気づいていないのに。

ジュリスはちらっと見ただけで、私が私だって分かるんだもん。

「お前とベリクリーデは、気配が違うからな…。すぐに分かるよ」

とのこと。

それでも、普通は気づかないものだと思うけどなぁ。

さすがだよ、ジュリスは。

…それはともかく。

わざわざ私が出てきたのは、ジュリスに聞きたいことがあったからだ。

「さっきの…無月院流って話の続きなんだけど」

「聞いてたのか?お前も」

「うん」

聞いてたどころか、見てたよ。

ずっと起きてたからね。

「あれ…やっぱり、素人が学ぶには難しいのかな?」

ジュリスも道場に通ってた、って言ってたし。

そりゃあ、一朝一夕で身につくものじゃないと分かってるけど。

凄く厳密に型が決まってるようだったから、それを覚えるだけでも大変だろう。

でも…それだけに、身につけたら強力な武器になるはずだ。

「何だ、やってみたいのか?」

「…手数は多いに越したことはないでしょ?」

「…まぁ、そうだな」

突然出てきて、私にさっきの抜刀術を教えてくれと乞うなんて。

図々しいお願いだということは、百も承知だ。

「無理にとは言わないけど…。時間があるようなら、私にも教えて欲しいんだ。…駄目かな?やっぱり、私には無理だろうか」

使える人を選ぶ、みたいなこと言ってたもんね。ジュリス。

誰にでも出来る訳じゃないし、少なくとも、ベリクリーデは絶対に向いてないし…。

…しかし。

「…いや、分かった。お前になら教えてやるよ」

えっ。

「…良いの?」

「あぁ。ベリクリーデにはとても無理そうだが…お前なら出来る」

…そっか。

「ただし、さっきも言った通り…かなりシビアな技だからな。簡単じゃないぞ」

「うん、分かってる。頑張るよ」

「よし」

手数は、多い方が良い。

その方が、ベリクリーデやジュリスや仲間達や、自分の身を守れるから。

いざというときの為に、万が一のときの為に。

いつかのときの為に、使えるカードは増やしておきたい。

それ以来私は、表に出てきた折に、ジュリスから無月院流抜刀術の指南を受けることになった。
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