神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
これには、さすがのナツキ様も怯んだだろう。

このまま敗北を恐れて、「やっぱり棄権します」って言ってくれて良いんだぞ。

…しかし、ナツキ様は。

「…役立たずめ」

苛立ったような表情ではあったが、怯えた様子はなかった。

…どうやら、まだ戦意を失ってはいないようだ。

まぁ、基本的にはアーリヤット皇国側に有利な状況だもんな。

一回戦で負けたとしても、ここで諦めるのは勿体無いだろう。

…でも。

負けたとはいえ、あのバーサーカー…バニシンは、非常によく戦った。

うちのベリクリーデを、あと一歩のところまで追い詰めたのだ。

そりゃ結果的には負けたけど、必死に健闘したのは誰から見ても明らかだ。

その点は褒めてあげても良いはずなのに、あんな風に役立たずと吐き捨てるなんて…。

いくら頑張って戦っても、戦った甲斐がないな。 

今は回復魔法をかけられて、切断された脚を接合してもらっているが。

アーリヤット皇国に帰り、目を覚ましたバニシンが、その後どのような処遇を受けるのか。

考えただけで、気分が悪くなる。

まさか、処分されたりはしないだろうが…。

こればかりは、俺達には知る由もなかった。

「…そろそろ、二回戦を開始します。両国共に準備を始めてください」

一回戦の勝利に浸る間もなく。

審判のマミナ・ミニアルが、俺達を急かした。

もう二回戦かよ。

二回戦…二回戦か…。

アーリヤット皇国にとっては、既に背水の陣だが。

一回戦を先取したルーデュニア聖王国側にとっては、少々肩を抜ける状況になった。

最悪負けたとしても、一勝一敗で三回戦に望みを繋ぐことが出来る。

…まぁ、だからって負けて良い理由にはならないけどな。

三回戦で何が起きるか分からないのだ。

二回戦でさっさと勝利して、綺麗にストレート勝ち出来るなら、その方が良いに決まってる。

勝って帰ろうぜ、折角一回戦で勝利したんだから。

ベリクリーデの頑張りを、無駄にはしない。

「二回戦、まずアーリヤット皇国の代表をお選びください」

マミナ・ミニアルは、例によってアーリヤット皇国のナツキ様に、先に選手を選ばせた。

たまには、こっちから先に選ばせてくれても良いんだぞ。

ナツキ様としては、一回戦の敗北で随分プライドを傷つけられているだろう。

それに、彼にとってこの二回戦は、絶対に負けることの出来ない戦いである。

二回戦にして、早くも切り札を切ってくるのではないだろうか。
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