神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
追い詰められたナツキ様が選んだのは。

「…お前だ、イルネ」

「…御意」 

ナツキ様は、イルネという女性を指名した。

真っ赤な白衣のような衣装を着た…いや、赤いんだから白衣じゃなくて、赤衣なんだけど…。

アーリヤット皇国代表団の中でも、最も小柄で、非力そうに見える。

あの子が代表…?

さっきのバニシンと比べたら、それこそマンモスとアリンコくらい体格差があるんだが…。

一回戦の敗因を反省して、今度は大柄な暴漢じゃなくて、小柄な女の子を選んでみたのだろうか。

ベリクリーデよりずっと小柄だ。

イーニシュフェルト魔導学院にいる、二、三年生の女の子くらいの背丈くらいしかない。

何処にでもいる少女のような…。

いかにも非力そうで、体重も軽そうで、とても戦えるようには見えないが…。

あれで本当に戦えるのか…?

…まぁ、でも人を見た目で判断しちゃいけないよな。

彼女だって、アーリヤット皇国の代表団に選ばれた、『HOME』の精鋭なのだろうから。

しかも、一回戦を落として追い詰められたナツキ様が、ここぞというときに選んだ切り札なのだ。

恐らく、アーリヤット皇国の代表団の中でも指折りの戦士なのだろう。

…とても、そんな風には見えないけど。

小柄な体付きからして、恐らく魔導師だろう。

果たして、どんな魔法を使うのか…。

それに、あの意味ありげな赤衣…。

まるで、医者が着る白衣を血に染めたような…。

「シルナ…あいつが使う魔法、分かるか?」

俺はシルナに、こっそりと小声で尋ねた。

イレースみたいな雷魔法や、令月みたいな力魔法…ではなさそうだ。

ナツキ様の切り札になるくらいなのだから、きっと俺達には思いもよらないような魔法を使うのではないだろうか。

…時魔法とか?

それなら俺も覚えがあるから、対戦相手は俺にしてくれ。

「どうだろう…。見ただけじゃ分からないね」

「…だよな…」

困ったような表情で答えるシルナに、俺も同意した。

見た目で分かるなら苦労しないっての。

結局は、対戦してみなければ分からない。

戦って、相手がどんな魔法を使うのか確認して、その上でどうやってその魔法に対処するのか考えなければならない。

やること多過ぎだろ。

対して向こうは…彼女、さっき名前…イルネとか呼ばれていたか。

イルネの方は、俺達がどんな魔法を使うのか、ある程度把握して臨んでいる訳で。

当然、対策も考えているはずだ。

つくづく俺達に不利過ぎるルールで、悲しくなってくる。

よく勝てたことだよ、ベリクリーデは。

「ルーデュニア聖王国の代表団から、対戦相手を選んでください」

マミナ・ミニアルが、ナツキ様に促した。

…さぁ、二回戦は誰が選ばれるか。

運命の瞬間だ。
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