神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「…ふん、好きに言え。どんな勝ち方だろうと、勝った方が正義だ」

ナツキ様は俺の野次には乗らず、相変わらず勝ち誇ったように鼻を鳴らして言った。

開き直りやがった。

開き直りやがったぞ。王様の癖に。

小学生かよ。

「お前達に拒否権はない。何度も言わせるな」

「…ちっ、お前…!」

好きに言わせておけば、勝手なことばかり…。

口喧嘩が始まりそうになった、そのとき。

「良いよ。僕が行く」

マシュリが、自らそう名乗り出た。

…マシュリ、お前…。

「良い…のか?向こうは散々、マシュリの対策をして…」

ナツキ様本人が言っているように、マシュリの手の内はバレているのだ。

その…マシュリが人間とケルベロスのハーフだってことも。

マシュリの真の姿…異形の姿のことも知ってる。

全部知った上で、あの女の子をマシュリにぶつけようとしているのだ。

あの子がどんな魔法を使うのかは分からないが、マシュリにとっては苦戦を強いられる、辛い戦いになるだろう。

正直、一回戦よりずっと…勝ち目は薄い。

それなのに…。

「いずれにしても、こちらに選択権はない。やるしかないよ」

「…それはそうだけど…」

「…精々、無様な負け方はしないように気をつけるよ」

…そうか。

マシュリが覚悟を決めてるなら、俺ももう何も言わない。

「無様に負けても一向に構わないから、死ぬなよ」

「…努力するよ」

あぁ、そうしてくれ。

お前が死ぬようなことがあったら、決闘に負けるよりずっと悪いからな。

俺達は、マシュリを決闘の場に送り出した。

一回戦の勝利に酔う間もなく。

いよいよ、二回戦の始まりだ。
< 538 / 699 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop