神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「アーリヤット皇国代表、イルネ・メルトリアス。前へ」

まず、アーリヤット皇国代表が呼ばれた。

イルネ・メルトリアス…。

血に染めたような赤衣を身に纏った少女。

果たして、彼女の実力は如何に。

…そんな少女に対するは。

「ルーデュニア聖王国代表、マシュリ・カティア。前へ」

我らがイーニシュフェルト魔導学院のマスコット、いろり…こと、マシュリである。

…実に因縁的な対戦じゃないか。

何かが違っていれば、マシュリが立っていたのは、アーリヤット皇国側だったかもしれない。

実質これは、『HOME』同士の決闘のようなものだ。

マシュリにとっては、元同僚と刃を交えることになる。

その心中、いかばかりか。

面白いものではないのは、確かだろうな。

マシュリはあの女の子を知らないようだったが、女の子…イルネの方は、マシュリを知っているのだろう。

…絶望的なほど不利な状況だが。

果たして、どのような戦いになるのか。

「それでは、第二回戦を開始します。両者、いざ尋常に…」

マミナ・ミニアルが、二回戦の開始を告げるホイッスルを鳴らした。

…その瞬間だった。

マシュリが左手に嵌めていた指輪…例の、賢者の石を細工して作った、あの指輪だ。

あれを外し、その場に放り投げたかと思うと。

ホイッスルが鳴り止まぬ間に、目にも留まらぬ速さでイルネに向かって跳躍した。

これには、俺もシルナも、目が点になった。

先手必勝…と言わんばかり。

まさか、令月とすぐりが考案した戦法を。

敵が術を展開する前に、最初の一撃に全てを込める戦法を使うとは。

全然予想していなくて、俺はしばし、目の前で何が起きたのか分からなかった。

目を見開いたイルネの顔面に、ケルベロスに『変化』したマシュリの脚が迫り。

凄まじい破壊音を立てて、周囲が土煙に覆われた。

今日の決闘だけで、ミナミノ共和国の国立競技場はボロボロだよ。

異国人にめちゃくちゃに破壊されて、この競技場を造ったミナミノ共和国の人々は、これを見たら泣くだろうな。

まさか、こんなことに利用されるとは思わないだろうに。

それでもまだ、周囲に被害が出なくて良かったと言わざるを得ないのかもしれない。

何せ、ケルベロス形態のマシュリが本気で暴れて、周囲に被害を出さずにいられる決闘の場所なんて、他にはないだろうから。
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