神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…マシュリの、渾身の不意打ち攻撃。

これが成功すれば、敵の狡猾な搦め手なんて、何の意味も持たない。

ナツキ様がどんな対策を立てていようが、マシュリの手の内を知っていようが関係ない。

一撃で仕留められれば、そのような思惑は関係なしに、手っ取り早く決闘が終わるはずだった。

…成功すれば、の話だが。

「…!マシュリ…!」

土煙の中から、決闘者二人の姿が見えてきた。

マシュリの攻撃は、イルネに届いていなかった。

「…そんなことだろうと思ってた」

イルネの顔の前に、赤い4枚のカードのようなものが展開され。

それが盾となって、マシュリの攻撃をすんでのところで防いでいたのだ。

イルネは、してやったり、とばかりに口元を歪めた笑みを浮かべていた。

あの好戦的な笑顔を見ろよ。

…さっきのバニシンと言い、笑い方が歪んでる奴多過ぎだろ、『HOME』の連中。

国王がアレだから、集まる人間もそっち系なのかもしれない。

って、今はそんなことはどうでも良い。

「防がれたか…。読まれてたね」

「こーなると、完全にこっちが不利だね」

不意打ち戦法を考案した張本人である、令月とすぐりが言った。

…そうだな。

成功していれば、今頃ルーデュニア聖王国の勝利で決闘が終わってたんだが…。

…そう甘くはないよな。さすがに。

それを許してくれる相手じゃない。

それなりにマシュリ対策をしていると言っていたのは、嘘ではなかったらしい。

「獣のやることなど、人間様にはお見通しよ」

イルネは勝ち誇ったように笑って、4枚のカードを操作した。

瞬間、カードが光り出し、マシュリの攻撃を弾き飛ばした。

自慢気に勝ち誇ってるところ悪いけど。

この不意打ち戦法、考えたのはマシュリじゃなくて令月とすぐりだからな。

…それはさておき。

「…何なんだ?あのカード…」

あれが、あのイルネの武器なのか?

一回戦のバニシンが、巨大な斧を振り回して戦っていたが。

イルネの武器は、あのカードだというのか?

斧に比べたら…随分貧弱に見えるが…。

「分からない。けど…もしかして、あれって…」

「え?」

シルナが何か言いかけたが、それを尋ねる間もなく。

再び、イルネがカードを操作した。

「さぁ、ご覧遊ばせ。…私の造った最高傑作を」

そう言ってイルネは、赤く光ったカードから、自称最高傑作を召喚した。

現れた異形の姿に、俺達は思わず度肝を抜いた。
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