神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

「そりゃ確かに、俺達はお前に危険な目に遭わされた。思うところが全くないって訳じゃない」

気持ち悪かったしな、ゾンビ。

散々生徒達を怯えさせてくれた、そのお礼もまだしてない。

が、それはそれだ。

「でもだからって、俺達はお前を憎んではいない。お前が俺達を憎んでないようにな」

「…」

「目の前の人間が殺されそうになってるのに、見過ごすことは出来ない…。俺達がお前を気にかけるのは、それだけの理由だ」

我ながら甘い考えだとは思うが。

俺もシルナも、これまでずっとそうやって生きてきた。

今更その生き方を、変えることは出来ない。

だからこれからも、このスタンスを貫かせてもらうぞ。

「…ふーん…。…甘いなぁ…」

だろ？自分でもそう思う。

でも、それで良いんだよ。

それで一人の命を救うことが出来るならな。

「ルディシア、どう思う？ナツキ様は、お前が任務に失敗したことを許さないと思うか？」

「さぁ…。あの人が何考えてるのかは分からない、けど…」

…けど？

「『己の役目を果たせない人間に、生きる価値はない』…皇王の口癖だよ」

…嫌な口癖だな。

『アメノミコト』の頭領と言い、ナツキ様と言い…自分の部下を何だと思ってるのか。
　
「じゃあ、お前が帰ったら…」

「何らかのペナルティはあるだろうね。みすみす殺されるつもりはないけど」

まぁ、お前のその能力なら、いくらでも逃亡することは出来るだろうが…。

「追われる身になるのは辛いぞ」

「別に。これまでもずっと、死体だけが俺の味方だったんだ。今更一人になることなんて、何とも思わないよ」

…嘘つけ。

なまじ子供みたいな見た目のせいで、一生懸命強がってる子供のようにしか見えない。

そして。

困っている人を相手に、シルナが手を伸ばさないはずがない。

「ルディシア君。君はルーデュニア聖王国に亡命すると良い」

…そう言うと思った。

シルナのいつものパターンだな。

イレースもナジュも、令月とすぐりも…予想していたらしく、顔色一つ変えなかった。

勿論、俺もな。

驚いたように顔を上げたのは、ルディシアだけだ。